第62話
香澄の背中が見えなくなるまで見送って、視線を腕時計にスライドさせる。
時間を確認して思わず溜息が漏れる。
夜の帰宅ラッシュ、電車の中の人口密度を想像しただけで身震い。
あの人に埋れる感じ、凄く苦手だ。
駅に向くことのない足はあてもなくその場で立ち尽くした。
ぼんやりと街に意識を向けると、相変わらず人が溢れてる。
通い慣れた街だったはずなのに。
今は見てるだけで憂鬱。
溜息を吐き、いったん頭の中を整理するも答えは出ている。
この状況でタクシー以外の選択肢はない。
車を捉まえやすい場所まで歩いていると、少し前を歩く人が目についた。
歳相応に腰が曲がり、右手には白杖。
歩道の黄色い点字ブロックを辿るように歩く姿。
夜の繁華街には浮いて見えるその人から目が離せなくて、目で追いながらお爺さんの少し後ろを歩いた。
1ブロックほど進んだ所で、前からスーツ姿のサラリーマン三人が横並びで歩いてきた。
全員が三十代ってところだろうか。
遠慮の欠片もなく広がって歩道を使う姿は違和感しかない。
そしてお爺さんとすれ違う瞬間、一人がおじいさんにの肩に大きくぶつかった。
「あぶな―――っ、」
お爺さんはぶつかった反動で体勢を崩し、アスファルトの上に大きく尻もちをついた。
手にあった杖は宙に投げ出され、カランと音を立てて道路脇へ身を沈める。
その光景を見て、体の力がスコーンと抜け落ちた。
意志を失った足はその場でピタリと止まり。
一瞬時間が止まったようにさえ感じた。
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