第61話

「ねぇ、ほんとに一緒に行かないの?」


「うん、やめとく」


「えー……」



学校帰りに香澄の買物に付き合って、二人で晩ご飯を食べた。


この流れでクラブに行こうと言う香澄の誘いを断ると、不満気な香澄の顔が向けられる。



「最近何かあった?」


「何かって?」


「渚も譲も夜あんまり出ないじゃん?ミノブとも心配してたんだ」


「心配されるようなこと何もないよ」


「もしかして譲って意外と束縛する奴だったとか?」


「あははっ、残念ながらそんな面白いオチはつかないよ」




香澄ってばすっ呆けた顔して面白いことを言う。

奥歯が見えそうなほど笑う私を見てイラッとしたらしく、あからさまに眉間にシワを寄せた。



「笑いすぎだよっ、心配して言ってんのにっ」


「そうだね。ごめんごめん」


「たまには顔出しなよ?泰ちゃんも寂しがってるし。それと忘れないでよ? 明日は――――…


「香澄のバースデーパ-ティー。でしょ?」


「わかってんじゃん」


「ちゃんと行くから。譲も仕事終わったら顔出すって言ってた」




約束の言葉を耳にした香澄は満足そうだった。


そして手を振ってネオンの中へ消えていく。



軽やかな足取りの後姿をぼんやりと見つめながら思った。


自分はあんな風に、生き生きとして街へ出たことない。


自由に泳いでいたつもりだったけれど、水を得た魚には一度もなれなかったんだって。


楽しいと思えなかったんだから当たり前か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る