第53話

「……電話くらい欲しかった」


「何度も渚に電話しようとしたけど、会社も立ち上げたばかりだったから自分のことで精いっぱいで。なかなか連絡出来なくてごめん」




兄ちゃんが深く頭を下げる姿を前に、渚は責める気はなくなったらしい。

顔には不満が表れていたけど。というか不満しかなかったけど。俺は何となく兄ちゃんの気持ちが分かるような気がした。



きっと同じ男だからなのかもしれない。




「渚は?今どうしてる?」


「大学生だよ。そのまま内部進学」


「そっか。渚が卒業する頃にはこっちに支店作って戻ってくるから一緒に住もうな」



恋人同士ならプロポーズのようにさえ聞こえるその言葉は、純粋に兄貴を待ち続けてきた渚の心には、俺が想像するよりも深く響いたと思う。



奥から熱く込み上げてきたんだろう。

渚は声を漏らすことも出来ず、ただ目に涙を浮かべて頷いていた。




「今は会社も業績はいいけど波に乗っかるだけじゃいけないし、俺の仕事は日本と海外を行ったり来たりだから。せめて大学を卒業するまではあの家にいてほしい。渚が卒業するまでの間は俺も準備期間だと思って死ぬ気で働くよ。

渚ももう少し頑張れ。今までみたいに音信不通にはならないし、出来る限り助けになるから」




何やらハッピーエンドの予感。

卒業後と言う不確かな未来だけど、渚はそれを信じて力強く顔を上げる。




「お兄ちゃんと住むことになった」って。

渚がいつか笑顔で俺に一番に報告出来るように、誰よりも近くでこいつを見守ろうって思った。



そんなポジションって何かいいと思うから。

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