第35話

「俺は汗だくになって走ってたのに、お前は優雅にタクってたもんな」


「追いかけてきてるって知らなかったもん」


「知ってても無視してただろ?」


「……どうかな」


「そういや男とホテル行こうとしてたんだっけ?」


「自分も女の子と消えたよね」


「俺は自主的に撤収してきたけど、お前は俺が止めなきゃヤッてたよな」



無意識に眉間にシワを寄せて隣に顔を向けると、譲は意味ありげに眉を上げて涼しい瞳で私を見ていた。


あの時のホテルだからチクリ言われる覚悟はしてたけど果てし無く面倒だ。



どう考えてもお互い様なのに。

というか、男の家泊めてもらえって言ったのは譲だし。


なのに何故私が攻撃されてるんだろう。




「ブーツで走ってたから足辛かったんだよなー」


「………」


「まじ心肺機能潰れて倒れるかと思った」


「……へー」


「あんな走ったの何年ぶりだろ?」



ここぞとばかりに吹っ掛けてくる。


開いた口が塞がらない。

唖然として譲を見ているとまた目が合って、腹の虫が治まらずに思わず口を開いていた。



「引くわ」



吐き捨てた私のたった一言はクリーンヒット。

譲の額には青筋が。



「お前っーー!」



そして運転しながら更に喚く。


途切れる予感のない譲の声に疲れて、譲と隣り合う右側の耳を意識的に閉じた。


ついでに目も閉じたりなんかしてホテルが見えるのをひたすら待った。



着くのが先か、譲の口にタオルを突っ込むのが先かって瀬戸際でやっと見えたホテルのロゴ看板。



思わず安堵の溜息が漏れた。

とてつもなく長い道のりだった。

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