第23話

一世から預かった鍵を渚に返すと、それは雑にガラステーブルの上に投げられてガラスと金属がぶつかり合う冷たい音が部屋に響いた。



「……お前が店で荒れてた時、家に帰したのは間違いだった気がしてきた」


「今更?らしくないこと言うね」


「もっと他に考えてやるべきだったのかも」


「自分のことを譲に考えてほしいなんて思ったことないよ。言ったでしょ、譲くらいが丁度いいって」



珍しく気弱な発言をしたからなのか、渚は目尻を下げて柔らかく微笑む。

それでも迷いを拭えない自分を芯のない人間にさえ思えてきて、表情を晴らすことができない。




「――私ね、あの街で悪いこと沢山してきた」



話題を変える為なのか、渚が話し始めた。

遠くを見据え、ゆっくり言葉を探るように。



「若い頃から街に出てりゃ誰だってそれなりの事経験するだろ」


「―――そうかもね、」



意図を汲めないまま返したのは、渚の言う“ 悪いこと ”なんて高が知れてると思った。


年齢偽って酒飲んでたとか、タバコ吸ったとか。

ID偽装してクラブに出入りしてたとか。

所詮その程度のよくあることだと思ってた。





知らない世界が多すぎた。


言い訳にしかならない言葉だけど、たった一つの言葉の意味でさえ俺達の捉え方は違い。

その食い違いに気づかないまま違和感さえ抱かない。



渚が改まって俺に話した理由も考えず。

奥深い表情にも気づかず。


世間一般の “ 普通 ” を渚に当てはめてた。




渚は普通の奴らとは違うと知っていたのに。

型に填まるような女じゃないと誰よりも敏感に察していたのに。



カップルらしいことをやって感覚が麻痺していたのは俺の方だ。

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