第21話
「マジか、」
想像していなかった専有フロアに圧倒されながらも表札に目をやると、行きつけのサロンのオーナーである渚の母親の面影が浮かんだ。
オーナーに最近会ってなかったから親子だってことすっかり抜けてた。
無意味に背筋がピンと張り、戸惑いながらも預かった鍵で中へ入ると部屋の雰囲気に驚かされた。
立派な家なのは想像してたけど、それより驚いたのは生活感の無さ。
なんつうか、匂いのない家ってのかな。
越してきたばかりの時のような感覚。
人が生活してる匂いが全くしない。
渚が使う家の鍵に飾り気の無い理由。
何となくだけど解った気がした。
飾られることのない道具に過ぎないその鍵は、渚の家族への精一杯の抵抗のよう気がして、無性にこの手に抱きしめてやりたくなった。
同時に俺の判断は間違っていたんじゃないかと不安に駆られる。
この家に帰しても結局は孤独。
根本的なことは何も解決しないんじゃないか。
それなら暫くでも自分の家に渚をおくべきだったか。
家に帰らないなら自立すればいいと促したのは短絡的だった気がしてならなかった。
必要以上の物は置かれていないモデルルームのような部屋。
ここに何があると言うのか。
独りで居るってのは追いつめるだけのような気がしてならない。
眠る渚の顔を眺めていると一世の言葉が突き刺さる。
「心も体もギリギリんとこで踏ん張ってる人間って少なくないと思うよ」
そこに何かあると気付いていても見ることができない。
もどかしさが沸々と込み上げる。
贅沢は言わない。
せめて相手が抱えてる不安ぐらい察してやれる男になりたい。
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