第20話

受け取った鍵を強く握り締め、大通りに向かって歩き出した一世を呼び止める。



「なー!何で渚倒れた?」



振り向いた一世は眉間にシワを寄せて厳しい表情。



「……さーな。色々あんじゃねえの」


「色々?」


「譲には理解できねえだろうけど、心も体もギリギリんとこで踏ん張ってる人間って少なくないと思うよ」




相変わらず向けられるのは冷めた表情。

責めるような眼差しに返す言葉はなかった。




渡された鍵を使ってマンションの中へ。

重厚なガラスの向こうにある渚のテリトリーは、まだ足を踏み入れたことのない世界。


渚が長年孤独を感じていた空間に触れる。

不思議な感覚だった。



スーツ姿のコンシェルジュと目が合って一瞬雰囲気に呑まれそうになったけど、逸る気持ちが勝ってエレベーターを探した。



エレベーターに並ぶ数字列を見て向かう先がペントハウスだと知る。


狭い箱の中、途中耳が詰まりそうな嫌な感覚。

こんな感じで待つ人のいない家に帰る渚の心中を察すると言葉にならなかった。


エレベーターが速度を落とし、息苦しさからやっと解放されると安堵した瞬間、向こう側に見たのは別世界だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る