第19話
『渚が倒れた。お前来れる?』
ツアー初日に向けてバンマスと細かい修正作業をしていたところに、突然の一世からの電話で慌ててリハーサルスタジオを飛び出した。
一世の冷静な声から推測すると、緊急性が高い状況じゃないってのは安易に想像がついた。
頭では解っているけど落ち着かなくて、体中の血が生々しく下がってる感触がした。
タクシーが渚のマンションの前に着くと同時に視界に飛び込んだのは厳しい表情の一世。
腕を組み、エントランスに背中を預けて俺を待っていた。
慌ててタクシーを降りた俺とは対照的に目の前の男はあくまでも冷静を装い、表情をピクリとも変えずに鍵を差し出した。
キーホルダーも何も付いてない。
それは道具に過ぎないシンプルな鍵だった。
「部屋に運んだ。家誰もいねぇみたいだし、お前呼ぶしかなかったから」
一瞬過った要らぬ妄想を口にすることはなかった。
このタイミングで自分が呼ばれたことが全ての答えのような気がしたから。
これ以上状況をややこしくするのは利口じゃない。
「迷惑かけたな」
意地と強がりが言わせた言葉だったのかもしれない。
目の前の男はそれを見抜けないバカじゃない。
一瞬目がかち合うと。
「つまんねえ勘ぐりすんなよ。偶然居合わせただけだから」
愛想なく言って、その後は伏せたように目を合わせようとしなかった。
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