第3話 なんきゅうざき駅
田舎の通勤・通学というものは、鉄道会社と自治体のご厚意に支えられている。
私が日々利用させてもらっているこの列車も、言わずもがな赤字路線である。
廃線となっても止む無しの状況ではあるが、僻地に住む我々や学生たちにとっての貴重なライフラインを文字通り身を削って維持してくれている。
そんな状態が故に、車両は度々故障やトラブルを繰り返している。
運休にでもなった日には、にわかに喜ぶ学生を尻目に泣く泣く車での通勤に切り替えたものだ。
ある朝、無事定刻通りに到着した列車に足を踏み入れた瞬間、異臭を感じた。
ディーゼル車独特の、排気ガスの匂いだ。
しかし社内は至って静かなもので、すやすやと眠っている学生も多々。いつも通りの風景だった。
最初は乗り込むタイミングでたまたま風に乗った排気を吸ってしまったのかと自分なりに辻褄を合わせようと思ったのだが、一駅を過ぎ、二駅を過ぎ、一向に改善しない社内の匂い。
若干窓を開けてみるものの、焼け石に水だった。
そんな苦境に流石に音を上げようとした矢先、社内にアナウンスが響いた。
「社内に排気ガスが流入する車両トラブルが発生致しました、直ちに降車し次の列車をお待ちください。ご迷惑をお掛けし誠に申し訳ございません。」
やっと解放された安心感はあったものの、遅刻分をカバーすべく昼休みが無くなることを予見し頭が痛くなった。
周りを見ても皆おなじように職場や学校に電話を掛けていて騒がしいくらいだった。
ふと思ったが、やはり異臭は確かにあって皆も気づいていたはずだ。
なのに自分も含め、誰一人声を上げることなく、黙って耐えていた。
排気ガスだ、人によっては体調を崩すこともあっただろう。
だが、それでも決まった時間に目的地へ向かうことを全員が全員優先していたのだ。
結局私が多少遅刻したとて、会社も仕事も回るもので、社会の歯車にすらなれていないはずなのに。
それでも我々は、身を削り、律義に時間を守り、目的地に向かう。
多分、この中の誰かが突然亡くなったとしても、遅刻の心配をするのだろう。
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