第2話 ほくごう駅

田舎は割と車社会だ。

目的地まで10キロ先、20キロ先なんてザラだ。

かつてそこそこの規模の市町村合併があり、それに伴ってしっかりとした道路が引かれることになった。

それまではこの「ほくごう駅」は隣町を繋ぐ数少ないインフラで、昔は結構利用者も多かったようだ。

使いやすい道路が出来たおかげで車やバスなんて小回りの利く足が使えるようになり、段々と利用者は減っていき今では無人駅になってしまっている。

ただ当時は賑わっていただけあって構内は広く、壁中に張られたポスターや時刻表、落書きなんかが趣を感じさせる。


私の利用する列車では、定期券なるものが存在する。

どこどこの駅からどこどこの駅まで、いつからいつまで利用する。なんてことを伝えて月額で発行してもらうのだ。

ある日私はうっかりこの定期券の更新を忘れてしまい、近くに駅員が常駐する駅が無いかと探し回っていた。

ランドマークの少ない田舎である、わざわざ最寄り以外の駅を使うこともないと思っていたのが仇となった。

前述の通り広い構内を持つこの駅ならばとその時の私はそこに飛び込んだのである。

予想に反してがらんとした構内。

勿論そこに駅員なんていなかった訳で、また次の有人と思われる駅を探そうと入り口を振り返る。

一瞬だけ、一瞬だけぎょっとした。

構内に入ってすぐ、右手側の、昔は電車を待つ利用者たちが賑やかに語らっていたであろうベンチに、大量の花束とコーヒーやカップ酒が並べられていた。

はじめは長いことこの町を支えたこの駅への労いや記念かと思ったが、いざ帰ろうと横目で通り過ぎようとした際に菊や彼岸花の生花だったことを認識してしまった。

何かがあったのであろうその場所を、なんとも言えない気持ちのまま私は後にした。


その日はあと二駅ほど回ってみたものの、いずれも無人あるいは駅員が帰宅していて定期券の更新は叶わなかった。

翌日は結局車で通勤し、小遣いから駐車場代を賄い懐を寂しくしたものだった。


昼休み、なんとなくあの駅周辺の事故や事件なんかを調べてみたが、ここ数年そんな事は起きていないみたいだった。

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