第19話 亜蛇という少年
天一坊が送った刺客は先回りして
吉乃の母『美世』の墓参りのため数馬たちが必ず寿林寺を
「天一坊様には腕の立つ武士を三人と願ったのに
歩きながら茅野は吐き捨てるように言った。
共に旅をしてきたのは『
亜蛇は何を言われても伏し目がちな鋭い目をちらっと動かすだけで無表情だ。
「いったいどれほど腕が立つというのだ。そもそもおぬしは武士でもないではないか」
亜蛇の
茅野は何を言っても会話が成り立たない亜蛇にいい
「おぬしの腕が確かなら一度見せてみろ。相手をしてやる」
茅野は
亜蛇は突然鋭い目を向けると、
「おれの技を見ることはできぬ。剣を抜いた時にはお前の首は宙を舞っている」
ぽつりと言った。
茅野もまた
亜蛇が育ったのは
そこの住人は
住人たちは互いに
亜蛇の両親が
だが両親が住みついた時には既に
それでも乳飲み子を抱えた両親は
春になると
亜蛇が五歳の夏のことだった。
毛皮を売りに行った父親が役人に
集落の住人の多くが藩の役人に連れて行かれ、亜蛇の母親も
子供だった亜蛇は殺されることはなかったが、村を追われ一人で生きる試練を与えられたのである。
亜蛇は家の焼け跡から
雪が降り川が凍るまではひたすら食べ物を探し回ったのだ。
幸い亜蛇が
七歳になると亜蛇は父親の残した
山には竹が豊富に
竹を
亜蛇が最も気に入っていたのは
腹が満たされた午後は川岸で竹の刀を振るうのが日課になっていた。平たく削った竹は風を受けるとたわんで
ある日亜蛇が己の肩の高さで
亜蛇は口元に笑みを浮かべて鼻で「ふふ」と笑った。それからというもの亜蛇はその音を求めて必死に竹刀を振り続けるのであった。
川岸を流れに逆らって半日ほど歩くと激しい音を立てて落ちる一筋の滝がある。
滝つぼの周りは澄んだ池になっており、池の先は再び
十歳になり行動範囲を広げた亜蛇はよく川に沿って登り、汗と身体の汚れを落とすため水浴びにやってくる。
亜蛇がいつものように池に入ろうとすると、その日は先客がいた。滝に打たれる
そこは獣や鳥が水を飲みに来るので狩りには
亜蛇は身を低くして草むらに隠れた。右手に握った竹刀の切っ先を左肩の上に置く独特の構えだ。
やがて草を分けて一頭の若い
亜蛇は鹿の動きに合わせて飛び上がり左肩に乗った切っ先を水平に払った。
鹿は着地と同時に
「見事だ、
声をかけたのは滝行をしていた山伏であった。
亜蛇は驚いて飛び
「案ずるな何もせぬ。そなたの技があまりにも見事だったので声をかけたくなっただけだ。わたしはこの
亜蛇は立ち上がって興味深くその出で立ちを眺めた。そして改行を見上げたまま首を横に振って言った。
「親はいない。
改行は亜蛇に興味を持った。
「では一人でこの山奥に住んでいるのか」
亜蛇は大きく頷いた。
「名は何というのだ」
「本当の名などとうに忘れた。いつも這いつくばって獲物を探しているから村の奴らからはへびと呼ばれている」
改行はその一言で他の者から蔑まれ孤独に生きてきたことを見抜いていた。
「へびは
亜蛇は首をかしげて、
「それはどういった意味なんだ」
と聞いた。改行は笑顔で頷くとわかりやすく説明を始めた。
「亜蛇とは人に
亜蛇はもっともだと思った。このまま食物を探す日々を送っていては、そのうちに己自身が獣になってしまうような気がしていたからだ。
「わかった、亜蛇が良い。それから改行様の行く所におれも連れて行ってくれ」
「わたしの
そう言って改行は高らかに笑った。
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