第11話 六兵衛長屋
数馬が探索方同心の役目に
江戸入りする
そんなある日、六兵衛長屋に新たな住人が加わった。
空き家になっていた通路奥の家に住み着いたのは、浪人とは思えない
兄の方は数馬より年上のようだが、妹は吉乃と同じ年頃なので二人はかなり歳が離れていた。
数馬が警戒する中、五日後にはもう刺客が現れた。
数馬の家は長屋の入口近くにあったので
いざという時に飛び込めるよう距離を縮めて様子を
その時である。中から「何者だ!」と娘の声がして内側から板戸が開いた。娘の手には短い
驚いたのは黒装束の三人だ。飛び下がるように離れると刀を抜いた。
娘は
流れるような動作で三人を転がすと、
「
そう言い放ち、逃げる後ろ姿に声を掛けた。
「お役人様、ご覧になっていたのですか。はしたないところをお見せしてしまいました」
娘は数馬の
「お見事でした。その腕前ならば心配ないと思い、お助けせずに見物しておりました」
「まあ、お人が悪い。茶でも飲んでいかれませ」
娘も
何事かと集まって来た住人たちを家に戻してから兄妹の家に入ると、兄は部屋の隅にいてまだ胸の前で刀を
「兄上、もう族は去りましたよ」
それを聴いて兄は我に返り数馬を見た。数馬は慌てて正座すると刀を脇に置いた。
「わたしは探索方同心、香月数馬と申します。お二人同様この六兵衛長屋に住んでおります」
「それですぐに駆け付けてくださったのか、かたじけない。それがしは
源之助は茶を運ぶ妹を見ながら言った。
「
数馬の申し出に、源之助は瑞江と目を合わせ小さく頷いた。
瑞江はささやかな
「どうぞご覧くださいませ」
差し出された書状を開いた数馬は目を
「これは、
「さようでござる。我らは父の
源之助は事の始まりから事情を語り出した。
源之助と瑞江の父、橋本
半年前のことであった。源太夫は
源太夫は
やむなく源太夫は明日
事件は
その後の取り調べで亀石に与えられた
公金横領についてはうやむやにされ、源太夫殺害においては単なる
すべては
源之助は父の跡を継いで勘定方に就任し、事件は終結したと思われた。
ところがその
口々に「
「仇討ちを申し立てぬは武士の恥だ」「父親を殺されたのに泣き寝入りとはそれでも武士か」と責められ、源之助はやむなく仇討ちを申し出た。
おとなしい性格の源之助にとって争い事は嫌いだった。刀よりそろばんの方が得意だったからだ
そんな源之助を見て亀石側も仇討ちを承認した。
かくして仇討ちの許可を得た源之助は
「江戸では宿ではなく長屋に落ち着かれたのは
数馬が長期滞在の理由を尋ねた。
「江戸の
源之助の説明に瑞江も
「この広い江戸で
と、
「勿論です、その時はわたしも
「ありがとう存じます。お笑いでございましょう、我が家は女の方が強いのです。わたくしは幼い頃から母の手ほどきを受けて薙刀の修業をして参りました。兄だけでは返り討ちに
瑞江の目には決意がみなぎっていた。
数馬は守るべき人がまた増えたと感じた。
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