第9話 下谷の火事
どの家も
吉乃は浅草にいて勝五郎たちの
「さあ、支度のできた者から食べておくれ」
火消したちは
勝五郎は現場に到着するや
数馬は己の住む長屋が風上であることを確認すると下谷に向かって走った。
火事場に着くとすぐに逃げ
当事者以外にとっては、火事は江戸の
幸いにも風下には寺が多く、広い
だが火事は延焼を食い止めても思わぬところへ飛び火し、そのたびに走り回ってはかき消し水をかけるという
疲れ果て
「ご苦労にございました。おかげで大火にならずに済みました」
すると纏を
「あなたはあの時の……お役人だったんですかい」
今度は数馬が目を見開いて煤で汚れた顔を
「あなたでしたか。両国ではとんだ災難でしたね、もう傷は良いのですか」
「はい、纏を振るのにも不自由はありませんや」
二人の話を聴いていた勝五郎は幸助に目をやった。
幸助は
勝五郎は数馬に向き直ると深々と頭を下げた。
「うちの者を助けていただきありがとうございました。お礼を申し上げるにもお名前を知らず失礼をいたしました。
「わたしは探索方同心の香月数馬と申します。お疲れのところ足止めをしてしまいました。ささ、どうぞお進みください」
その場を離れようとする数馬に勝五郎が声を掛けた。
「香月様も一晩中警戒に当たられてお疲れのことと存じます。あっしらと共に
そういえば数馬も腹が減っていた。笑顔で応ずると浅草に同行した。
浅草の家ではしずとさえが心配そうに待っていた。
吉乃は
しずは誰も怪我をしていないことを確かめると安心し、すぐに神棚に向かって手を合わせた。
子分たちは順番に
それぞれが達成感で満たされていた。自慢したり
腹が満たされるとしずは子分たちに、
「みんな、
そう言って家から追い出した。
勝五郎は待っていたかのように数馬を庭に面した座敷に誘った。
茶を飲みながら勝五郎は数馬の顔を
「あっしはもう一人香月様と名乗るお方を知っております。香月道太郎様というお名前をご存じありませんか」
数馬は思わぬ所で父の名を耳にし驚いて身を乗り出した。
「父です。わたしの父を知っているのですか」
勝五郎は道太郎と出逢った
「そうでしたか。して今の住まいはどちらに」
「はい、
勝五郎は不服そうに言って、
「何か事情がありそうで、ご子息様としてその
と、数馬に尋ねた。
数馬は一旦は黙ったまま首を横に振ったものの、今でも姫が出入りしているとなれば安全のため打ち明けることにした。
「驚かずに聴いてください。わたしが四歳の
驚くなと言われても無理な話であった。勝五郎は大きく口を
「そっ、それではご
「そうなのです。実はわたしは姫の名を知りません、教えていただけませんか」
数馬が訊くと、やっと正気に戻って、
「吉乃様とおっしゃいます」
と、丁寧に答えてから勝五郎はしずを呼んだ。
そしてしずも同席の上で数馬は詳しい事情を話した。
「数馬様や母上様もご苦労されたのですね」
しずは袖口で涙を拭いた。
「わたしは父を母のもとに帰したいと思っております。ですから父に代わって姫をお守りするために参りました」
数馬は吉乃の
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