第8話 小太刀と短刀
正月が過ぎた一月十八日、吉乃はさえに誘われて
その日は
幸助は勝五郎が
「今日は幸助さんも一緒だったのですね」
参拝を終えると吉乃が言った。幸助は
「はい、
と、答えるとそのまま歩きながら説明した。
「昔、江戸の大半を焼き尽くす『
「お気の毒に……」
吉乃が
「修行して一人前の大工になった爺さんはその家の娘と
幸助は笑顔で言った。
「どうして幸助さんは大工さんにならないのですか」
「俺は
「それでね、大工の
三人が声に出して笑いながら
「何しやがんでえ」
幸助が
吉乃は前に進むと帯の結びに隠し持っていた短刀を抜いた。
「ほう、おまえは武家であったか。その
連れの三人もいやらしい笑みを
「無礼はそちらの方です」
短刀を持つ手に力が入った。その時、
「娘さんの言う通り!」
大きな声に驚いた人々の視線が集まった。そこにはカルサン
「おまえは何者だ。武士か」
それには答えず、
「わたしのことよりお
若者は数馬であった。その日は非番であったため刀を置いて小太刀だけを差した
四人組は怒りに任せて全員が
「
数馬は動じず、
「
言うが早く進み出て、刀を持った手首を掴んでは次々に投げて大地に
幸助を傷つけた最後の一人には小太刀を抜き、
「
そう言って幸助の方を見た。
四人組は支え合いながら身体を引き
「傷は深くなさそうですが早く医者に診せた方が良いでしょう」
菅笠を取りながら数馬が言うと、
「ありがとうございました。ご恩は決して忘れません」
吉乃はそれだけ言うのが精いっぱいで名を尋ねることもできなかった。
家に帰った吉乃は不思議な出来事に
(思わず短刀を構えてしまったけれど、いくら力を入れて握ったからとてあのように
確かに手の中で短刀が自ら
吉乃はそのことを道太郎に話したかった。
一方、数馬も同じであった。
小太刀を抜いて峰を返そうとした時、手の中でブーンと唸りを上げた小太刀が震えたことで動作が一瞬遅れた。
(あの時、相手が
そう思うと数馬は小太刀の正体を知りたくて加納を訪ねることにした。
加納は腕を組んで考えていた。やがて口を開くと
「不思議な事よのう、刀が
と、
「呼び合うとは」
「うむ、そなたの所持する小太刀は元々
そして
吉宗の父『
ところが村正は心血を注いで
太平の世となり武士たちは刀を単なる飾り物のように扱い、己の刀で
いつしか村正の刀は切れすぎて
村正はそのことに
光貞は二振りとなった小太刀と短刀を受け取り、徳川の世が太平であることの証とした。
村正は
話を聴いて数馬は理解した。
「名工の
そう言った瞬間数馬は「はっ!」とした。
「そうだ、気付いたか。そなたが
「申し訳ございませぬ。名前も住まいも
数馬は唇を噛んだ。
「
そして加納は身を乗り出して
「して、どうであった姫のご様子は。どのようなお方であった」
「はい、恐怖の中にあっても
数馬は吉乃の顔立ちを思い描きながら夢中で答えた。
「そうか母親に似て美しいか。数馬どうした、顔が
加納は
数馬はさらに顔を染め、両国
道太郎は両国での出来事を聴いて最初は刺客かと思ったが、そうではないと知ると胸を撫で下ろした。
「わしは常に側におることはできぬ。これからもできるだけ一人の外出は避けるのだぞ、人気のない道を歩いてもならぬ。江戸は
道太郎の注意に
「今日、この短刀を抜いて構えた時に
吉乃は疑問を投げかけた。
「それはわしにもわからぬ。されどこの世には
それを聴いて吉乃は思わず
吉乃は布団に入ってもなかなか眠れずにいた。
(あのお方は二本差しではなかったけれど武士なのだろうか。三人を次々に投げる姿は
思い出すのは刀を向けられた時の恐怖ではなく、菅笠を取った数馬の
吉乃は胸の上に手を重ね、もしまた
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