第4話 吉乃の旅立ち
残暑が終わり風が冷たく感じられる季節の変わり目に、
道太郎たちだけでなく村中が悲しみに包まれた。
伊助の
道太郎はいずれ山の炭焼き小屋にも刺客が現れることを予測し警戒を強めた。
城中では吉宗の
長福丸の母方
葉山の
大久保は早速かねてより
藤丸が死んで
道太郎たちの村を探索していたのは、このような
ところが伊助亡き後、備長炭の商いにおいて道太郎自身が表に出るようになった。そのことが思いもよらぬ災いを
秋の
かねてから備えていた床板を静かに
道太郎は刀を
何事かと斬られた仲間のもとに集まった敵を
傷ついた者も残さず、引き
雨のおかげで焼き討ちに合わなかったことには安堵したが、道太郎にはさらなる防備を固める必要があった。
翌日より山に
だが新たな
吉乃は五歳になり、同年には吉宗に次男が誕生した。
大久保としては長福丸から後継ぎの座を危うくするのが落胤だけでなく次男の存在も見逃せなくなった。
そして
大久保は
葉山もまた吉宗の
かくして紀州徳川家の大きな変動で葉山も大久保も暗殺どころではなくなったのである。
さらに八年の歳月が流れ吉乃は十三歳になった。
今では道太郎と共に山に入り
村の娘たちとも親しくなり、遊びに行っては野菜などを
道太郎は村の若者たちに炭焼きの技術を伝えるために三年前から熱心に指導してきた。
備長炭が村の産業になれば良いと思っていたのである。
毎日が充実しており、このまま
ところがある日、美世は若者たちのために
それから身体のだるさを訴え、
やがて
倒れてから一年後、看病の
「道太郎さん、今までありがとうございました。あなたの人生をわたくしが
弱々しい声で言うと道太郎の手を求めた。道太郎はしっかりと
「何を
道太郎は近づいて美世に聞こえるようにはっきりと言った。
吉乃は母の
「最後にお願いがございます。わたくしがいなくなれば吉乃は将軍の娘として上様にお会いできましょう。どうかお目通りが叶うようお頼み申します」
美世は身分の低い自分がその
「はい、命に代えてもお約束いたします」
「かたじけのうございます。道太郎さん、わたくしはあなたのお
道太郎の耳元で
美世は初めて恋心を告げたことに満足してこの世を去った。
その顔は
享保十年(1725年)の夏、美世の眠る
「寂しくなるがこれも
「お世話になりました。お美世様をお願い申します」
「わかっておる、仏様を
円祥は
「
「おう、それならば姫様も慣れぬ旅をせずに済みそうじゃな」
吉乃は美世が
「
円祥は吉乃に向けて頬を緩め
「はい、和尚様も」
円祥は
村人は集落の入口に集まった。
「備長炭を絶やさぬよう願います」
道太郎から炭焼きを学んだ若者たちの顔を見回してそう告げると、
「
吉乃にとっては生まれ故郷である。何度も振り返っては手を振り別れを惜しんだ。
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