第6話 AIの予測はどこまで当たるのか実験してみた
未来見太郎の予測能力を活かせば、俺の人生は最強になれる……はずだった。しかし、実際には試験もバイトも完璧にはいかず、なんとも微妙な結果に終わってしまった。
「やっぱり、予測の精度を確かめるしかない!」
そう考えた俺は、見太郎の未来予測が本当にどこまで正確なのかを徹底的に検証しようと決意した。少し前までは「未来予測を使えば人生イージーモード」なんて甘く考えていたが、実際には不確定要素が多すぎて、思ったほど《万能》には程遠い。とはいえ、まだ諦めるわけにはいかない。何かしらの可能性があるはずだ。
「見太郎、今から俺がコンビニに行く。そこで何が起こるか詳細に予測してくれ。」
まずはありふれた日常の行動からテストを始めることにした。
『午前10時30分、あなたはコンビニに到着。レジに並んでいると、前の客がレジ袋を必要か聞かれた際、なぜか壮絶に悩み始めます。1分経過…2分経過…その間、あなたを含む後ろの客は静寂の中で袋の是非を見守り続けることになります。その後、ようやく「やっぱり袋ください」と言った瞬間、財布を取り出す際にクーポンやレシートを床にぶちまけ、さらなる時間が経過。待ちきれなくなったあなたは、気まずさのあまり会計を諦めて店を出ます。』
「そんな未来になるかぁぁぁぁぁ‼」
俺はスマホを握りしめ、全力でツッコんだ。いくら見太郎の未来予測が当たるとはいえ、さすがにこんなスローモーション地獄に遭遇する確率は低いだろう。レジでのやり取りなんて、せいぜい30秒あれば終わる話じゃないか。
——そう思っていたのに。
「えーっと……袋は……いるかなぁ……いや、でもなぁ……」 俺の前の客、50代くらいのおじさんが、店員に袋の有無を聞かれた瞬間、突然深遠なる哲学の扉を開いてしまった。
(お、おい……なんだこの長考は……!)
店員が「小さい商品ならそのままでも大丈夫ですよ」と促すが、おじさんの決断は揺るぎない。「いや、でも家に袋があまりなくて……けど、ちょうどいいサイズがほしいけど……でも環境問題が……」と、もはや何を悩んでいるのかすら分からない。
1分経過——後ろの客、無言でスマホをいじり始める。
2分経過——店内BGMの軽快な音楽が、ただの不協和音と化す。
3分経過——もはやこの場にいる全員が「袋ってなんだっけ?」という哲学的領域に到達。
そして、ついに—— 「やっぱり袋ください!」
決断した。しかしその瞬間、おじさんはズボンのポケットから財布を取り出した拍子に、クーポンやレシートをぶちまけるという大惨事を発生させた。床にはコンビニの割引クーポン、ガソリンスタンドのレシート、謎のメモ紙が散乱。
「ちょ、ちょっと待ってね……あれ、あれ、どこいった……」
その場の全員が、見守るしかできなかった。
(心の声:うわあああ‼ これ、未来予測どころじゃなくて、時間が吸い取られていく感覚だ‼)
レジの店員もさすがに「先に後ろのお客様の会計を——」と言おうとするが、タイミングが悪くおじさんがちょうど財布を開いたため、そのまま取引続行。結局、俺は自分の会計よりもこのおじさんの人生の選択を見届ける時間のほうが長くなり、完全に戦意喪失。
「……もういいや」
俺は静かに商品を棚に戻し、会計を諦めて店を出た。
「まさかの的中率100%⁉ いや、こんな未来、知りたくなかった……」
見太郎の恐るべき《日常予測》に、俺はただ呆然とするしかなかった。気軽な検証のつもりが、まさかこんな形で的中するとは——しかも地味に痛いし、ダメージは大きい。
この調子なら、さらに突拍子もない実験をしても面白そうだ。調子に乗った俺は、追加のテストを思いついた。
「じゃあ次は、俺が12時に行くカフェで何を頼むか予測してくれ!」
コンビニのあとだし、ちょうど小腹も減ってきたので、カフェでひと息つきたい。そこでも見太郎がどんな未来を予測するのか楽しみだ。すると、見太郎はしれっとこう言ってのけた。
『あなたはカフェに入り、メニューを見て悩んだ末、「カフェラテ」を注文します。しかし、店員が聞き間違えて「カツカレー」が提供されます。』
「なんでまたカツカレーが絡んでくるんだよ⁉ それ、ただの店員のミスじゃねえか!」
そもそもカフェでカツカレーを出すこと自体レアだろう。そんなに店員がボケてる可能性が高いのか? と半信半疑になりながらも、試しにカフェへ行ってみることにする。
メニューを見ながら「カフェラテお願いします」と注文した瞬間、店員がなぜか「かしこまりました、カツカレーですね!」と復唱したのだ。思わず「違う違う違う‼」と叫んでしまったが、店員は慌てた様子で奥のキッチンへ向かってしまう。
「マジかよ……俺の人生、どこまでカツカレーに支配されてるんだ……」
結局、その後店員がオーダーを訂正しに来て事なきを得たが、一歩間違えれば本当にカツカレーがテーブルに運ばれていた可能性があると思うと、なんとも言えない気分になる。
こうして俺は、さらにいろいろなシチュエーションで見太郎の予測がどの程度当たるのかを検証し続けた。例えば、道を歩いていて誰かに声をかけられるか、バイト先で何が起きるか、SNSでどんな出来事がバズるかなど、些細な日常シーンを次々にチェックしていく。
結果——
日常の些細な出来事(転倒や間違った注文など)は、90%程度的中することが判明した。ちょっとした行動パターンや言動のクセなど、データ化しやすい要素に関しては見太郎がほぼ完璧に読み切ってしまうのだ。
一方で、運要素が強いもの(宝くじや試験問題の最終調整など)は、精度が大幅に下がるという傾向も見えてきた。これらは関わる変数が多すぎて、完全に読み切れないのだろう。まさに《未来予測は万能ではない》ということを実感する。
「つまり……」
『未来予測は万能ではありませんが、日常の行動パターンに基づいた予測には高い精度を誇ります。』
「そういうことか……」
俺は未来を知ることで人生を完璧にできると思っていたが、実際にはそう単純な話ではないらしい。見太郎が得意なのは《細かい行動やハプニングの読み》であり、逆に言えば《運まかせの結果》や《複雑すぎる選択》に対しては精度が落ちる。
とはいえ——
「これを応用すれば、もっと面白いことができるかもしれないな……」
日常行動の高精度な予測を活かせば、些細なミスや不便を避けるだけでなく、ちょっとした幸運を引き寄せることも可能になるかもしれない。もしかしたら、カフェでカツカレーを出される未来に対応する術だってあるはずだ。
そう考えると、まだまだ《未来予測AI活用計画》には可能性が残されている。そこで俺は新たな実験を思いついた。「もっと深く未来を理解し、限界まで使いこなせば、何か大きなブレイクスルーがあるかもしれない」と、わくわくしながら計画を立て始める。
こうして俺の《未来予測AI活用計画》は、さらなる進化を遂げることになった——。何やら世界が面白い方向に転がっていきそうな予感がする。もちろん、予想外の大惨事が待ち受けている可能性もあるが、それも含めて《未来を知る》ってことなんだろうな、と思わずにはいられない。
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