第5話 自力で挑んだ恋愛、まさかのハードモード突入

「もう見太郎には頼らねぇ。恋愛くらい自分でなんとかしてやる!」

AI任せの恋愛シミュレーションで、散々な結果を見せつけられた俺は、ついに自力で恋愛を勝ち取ることを決意した。未来予測AI? 知るか。男は行動力だろ。

でも……。


「で、誰を誘うんだ?」

──思いつかねぇ。


そんなとき、ふと研究室の片隅で資料を読んでいる後輩が目に入った。

「愛原美空(あいはら みそら)」。大学4年生。丸いメガネをかけたお淑やかな女性で、研究室内でもどこか浮世離れした雰囲気を醸し出している。

正直、話したことなんてほぼない。でも……今、この流れに乗らなきゃ、一生チャンスは来ない気がした。

俺は深呼吸し、震える声で言った。


「……あ、あのさ! よ、よかったら今度ご飯でも行かない?」

「あ、いいですよー。」


──あっさりOK。

なんだこの急展開。フラグが立ちすぎて怖ぇ……。


【ご飯の日当日】


「先輩って、未来予測の研究してるんですよねー?」

「え、あ、うん。まぁそんな感じ。」

──緊張しながらも、軽い話題で会話がスタート。

よし、いい雰囲気だ。これはワンチャンあるんじゃ……?


しかし。

「てか、私の名前、愛原って言うんですけど、ローマ字にするとAIharaで、名前にAIが入ってるんですよねー。これ、運命感じません? 私、AIめっちゃ好きなんですよ〜!」

「へ、へぇ……(お、おう……)。」


──そして地獄が始まった。


「先輩、量子もつれと情報エントロピーってどう解釈してます? 私、エヴェレットの多世界解釈に基づくと、デコヒーレンス過程が人間の意思決定に影響を及ぼしてると思ってて!」

「え? えっと……でこひー……何?」


「つまりですね、ハイゼンベルクの不確定性原理とマクロスケールでの情報的カオス理論が、結局“自由意志”を錯覚させてるんじゃないかなーって!」

「……」


話が難解すぎて、国立大学院生の俺ですら全く理解できない。

なにこれ、会話がブラックホールに飲み込まれてるんだけど……?

美空ちゃんは笑顔でマシンガントークを続ける。


「だから、シュレディンガーの猫って話も結局観測問題に帰着するわけで、つまり《観測者バイアス》が人間の行動パターンを支配してると私は思うんですよねー!」


──あぁ……聞こえない。

だんだん声が遠ざかっていく……。

(あれ……俺……今……どこ……?)

完全に思考がバグった。


見太郎、助けてくれ…!


「見太郎……お前、こういうときに助けてくれる機能あっただろ……?」

『ありません。私は恋愛補助機能を搭載していません。』

「ふざけんなああああああああ!!!」

もうダメだ。未来予測AIもポンコツなら、俺もポンコツだ。


そして、結末。

気づけば夜も更けていた。

美空ちゃんは相変わらず「量子揺らぎと個人の存在意義」について熱弁中。


「……で、先輩はどう思います?」

「……え? あ、ああ……たしかに、うん……量子だよね。」

「ふふ、先輩、話わかってますねー!」


──わかってねぇよ。

心が粉々に砕けた俺は、帰り道で見太郎にぼそっと呟いた。

「……なあ見太郎。結局、俺の恋愛未来はどうなるんだ?」

『あなたの恋愛未来は、《完全なる情報崩壊》状態にあります。』

「どういうことだよ、それ!」

『つまり、《理解不能》ということです。』

「……そりゃ、そうだわな。」


こうして俺の自力恋愛チャレンジは、量子レベルで粉砕された。

──やっぱ、俺に恋愛はハードモードすぎたわ……。

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