第3話 未来を見れば人生イージーモード⁉
未来見太郎の予測が驚異的な精度を持つことが分かった今、俺は考えた。
「これ、もしかして俺の人生イージーモードなんじゃね?」
なにしろ、未来が分かるなら、日常生活のあらゆる面で優位に立てる。試験やバイトはもちろんのこと、もっと細かいところ——例えば明日の昼食や移動ルート、出会いのタイミングまで利用できるのではないか?
そう思うと、急にワクワク感が高まってきた。
「見太郎、明日の俺にとって最適な一日の過ごし方を細かく教えてくれ。」
俺は何気なく尋ねたが、その答えは想像を超えるほど緻密だった。
『午前7時18分、目覚める。7時35分、シャワーを浴びる。7時42分、歯を磨く。7時45分……』
「いや、そこまで細かくなくていい!」
見太郎の予測は秒単位で俺の行動を最適化しようとしているらしい。どうやら「最適」を追求すると、スケジュールをミリ秒レベルで管理する必要があるらしく、見ているだけで息苦しくなる。これなら人間をやめてしまうほうがラクなくらいだ。
『最適な一日は、ルーティンを正確にこなすことで達成されます。時間管理を徹底することで、生産性が最大化されます。』
「未来予測AIが言うと、なんか説得力あるな……」
確かに説得力はある。しかし、こんな細かいスケジュールを毎日実行していたら、逆にストレスで倒れかねない。あまりに完璧すぎる人生も、気が抜けてしまうのではないかと不安になる。
「じゃあ、俺の通学ルートを最適化してくれ。」
『現在のルートでは、途中の交差点で信号に2回引っかかる可能性があります。最も効率的なルートは、右へ1回曲がったあと直進し、コンビニ横の小道を通ることです。これにより通学時間を3分短縮できます。』
「おお、そんなルートあったのか!」
さっそく翌朝、見太郎の提案したルートを試してみる。確かに信号待ちが少なく、3分どころか5分近く短縮できるんじゃないかと期待が高まった。しかし、結果は予想外の展開を迎えた。
「なんで途中で猫に襲われるんだよ‼」
コンビニ横の小道に入った瞬間、謎の猫軍団が現れて威嚇され、まさかの逃走劇を繰り広げる羽目になった。信号は回避できても、猫のタイミングは回避できないらしい。結局、その対応に時間を取られて、かえって遅刻しかける始末。
「見太郎、こういうリスクも考慮してくれよ!」
『猫の存在は不確定要素でした。学習データに基づくと、猫がその時間に現れる確率は2.4%でした。』
「2.4%なら避けられると思うなよ!」
猫から逃げ回る俺の姿を想像すると、笑い話にもなるが、当事者としてはシャレにならない。道を最適化したはずが、新たな不運に巻き込まれてしまったのだ。どうやら未来予測にも限界があるらしく、予測できない事象や低確率なトラブルに関しては対策が難しいらしい。
次に俺は、食事の最適化を試みることにした。やはり食事は生活の中でも大きなウェイトを占めるし、ここを制すれば《人生イージーモード》への一歩になるのではないかと思ったのだ。
「見太郎、俺が今日食べるべき最高のランチを教えてくれ。」
『栄養バランス、コストパフォーマンス、満足度を考慮すると、学食のÅ定食(焼き魚セット)が最適です。』
「お、いいね!」
意気揚々と学食へ向かい、Å定食を注文しようとした……が、
「すみません、Å定食は売り切れです。」
「マジか……」
結局、メニューを見回した挙句、適当にB定食(カツカレー)を頼むことになった。どうしていつもカツカレーがそこにいるのか。運命を感じずにはいられない。
『あなたの未来の最適解がカツカレーに収束しました。』
「いや、なんでまたカツカレーなんだよ‼!」
未来予測AIが示した最適プランはあくまで《焼き魚セット》のはずだったが、現実のタイミングや在庫状況など、予測外の要素が重なり、結局カツカレーを選んでいる。まるで世界がカツカレーに誘導してくるかのようだ。
そして次に俺は、「未来を知ることで楽しみを増やせるのか」を試すことにした。せっかく予測があるのだから、事前に《楽しい出来事》を知って、その瞬間を狙い撃ちするという作戦だ。
「見太郎、明日、俺にとって最も楽しい出来事は何?」
『午前11時20分、大学の自販機で買ったコーヒーが当たります。』
「うおお、そういうのいいな‼!」
当たりつきの自販機といえば、運が良ければもう1本もらえるヤツだ。もし確実に当たるなら、ちょっとした得した感があるじゃないか。俺はその未来を信じ、午前11時20分にピッタリ合わせて自販機へ向かった。そして、勢いよくボタンを押す。
「……普通にハズれたんだけど?」
自販機は通常営業で、当たりなど出る気配もない。俺は釣り銭口を覗き込んだり、ボタンを連打したりしたが、当然何も起きない。
「見太郎、どうなってんだよ⁉ 今のは当たるはずだったんだろ?」
『10回中9回は当たる確率でしたが、あなたが引いたのは1回のハズレでした。』
「なんでそういうところだけ俺は運が悪いんだよ‼」
未来を知っていても、確実に望み通りになるわけではない。「知ることで期待値が上がる分、外れたときのダメージがデカい」という事実を、俺はここで初めて痛感した。
こうして、未来予測を使えば完璧な人生を送れるかと思ったが、実際には不確定要素や運が絡む以上、思った通りにはならない。むしろ、道を最適化しようとすれば猫が出てきたり、食事を最適化しようとすればカツカレーに収束したり、楽しみを増やそうとすれば逆にハズレを引いてがっかりしたりと、うまくいかないことが多すぎる。
「なんか、未来予測って思ったより使いづらいな……」
そんなことを考えながら、俺はふと、見太郎に問いかける。
「未来を知ることって、結局俺にとってプラスなのか?」
『未来はあくまで可能性の一つに過ぎません。あなたの選択次第で無限の未来が広がります。』
「それを先に言えよ……」
確かに、未来を知ってもそれが全肯定ではない。知ったからこそ回避しようと行動し、逆に新しい問題が起きたり、知ったがゆえにハズレを引いたときの落差に苦しんだりする。もはや知らなかったほうが気楽かもしれない、と思う瞬間すらある。
だが、まだ俺はこの《未来予測実験》を投げ出すつもりはない。未来が確定していない以上、きっとどこかに逆転の糸口があるはず。猫を避け、カレーを避け、そして運が悪くとも笑い飛ばしながら、もっとスマートなやり方を探し出してみせるのだ。
「……よし、次の作戦を考えよう。」
こうして俺の実験は、新たな段階へ進むことになる。たとえ見太郎が示す未来がどれだけ正確でも、俺には俺のやり方がある。知らぬが仏か、知った上でどう行動するかか——その答えを探し続けるのも、また人生の醍醐味なのかもしれない。
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