20話「色の世界」:叶恵side

先輩が誘ってくれた展示会を見た後は、近くのカフェでランチ。S N Sで話題になっていて、休日だったらまず入れない。でも、今日は平日。簡単に入ることができて、楽しくて美味してくて、幸せなランチになった。


「先輩、どうですか?」

「うん、よく似合ってる。可愛いと思う」

「ホントですか!あーでも、さっき他に可愛いのもあったしなぁ……でもこっちも……」


その後は、特に先輩も行くところは決めていないということだったので、ならばとこうやってショッピングを楽しんでいる。


「結局試着した方にしたんだ」

「はい。あ、先輩はあっちの方がよかったですか?」

「私はどっちでもかな。叶恵はあーいった可愛い感じの服が似合うから羨ましい」

「先輩も似合いますよ」

「お世辞ありがとう」


前から少し思っていた。先輩はこんなにも素敵なのに、自己評価がかなり低い。

絵に関してもそうだ。どんなに褒めても、確かに嬉しそうにはしてくれるけど、心の何処かでそれを本気にしていない感じ。


「じゃあ今度、叶恵が先輩の服選びます。で、選んだ服で次のデートしましょう」

「んー。まぁ自分じゃわかんないし、叶恵が選んでくれるなら」

「ホントですか!?」

「ただし、可愛すぎるのは嫌だ」

「ふふっ、はーい」


先輩は気づいているのかな。いまの話で、2回分のデートの約束をしたことを。

服選びをするためのデート。そして、それを着てのデート。

できれば年内がいいけど、それはちょっと難しいかもしれない。


「頑張って先輩が似合う服を選びますね」

「はいはい」


その後、ぐるりと施設の中を見て回った。

服に靴にカバン。化粧品に雑貨。あ、ゲームセンターにも久々に行ったりもした。

先輩と二人で出かけるのはこれが初めてじゃないけど、あの時とは違う。


「随分歩いたね。はぁ疲れた」

「そうですね。叶恵も疲れました」


隣にいるのは”恋人”の先輩。こうやって手をつなぐことも、肩を寄せ合うのも、当然のようにできる関係なんだ。


「どうした?」


叶恵がいきなり、先輩の肩に頭を乗せたせいで、不思議そうに叶恵のことを見下ろしてくる。

今いる休憩スペースは、お店が並ぶ通りから少し離れた隅の席。人が通ってもほぼ死角になる位置だった。

じっと、お互いに見つめ合う。何をするとも口にせず、自然、それこそそういう雰囲気になったから。というなんともいい加減な理由で、叶恵たちは唇を重ねた。


(あ、そういえばこれが初めてだ)


手をつなぐことは今までも頻繁にしていたけど、キスは今回が初めてだった。ゆっくりと唇が離れて、またじっとお互いに見つめ合う。

そのまま叶恵は、先輩の胸に顔を埋めたけど、途端に羞恥心が込み上がって着た。

こんな、公共の場でやるようなことではない。しかも、初めて。

頭の中はぐるぐるで、いまにも頭の中のコードが焼き切れてしまいそうだった。

ぎゅっと、先輩の服を握れば、優しく頭を撫でてくれた。

不意に耳に届く音。すぐそばで聞こえる先輩の心音はとても早かった。自分の、いますごくドキドキしているから、先輩も同じだったことがすごく嬉しかった。


「先輩」

「んー?」

「クレープ食べたいです」

「私はアイスかなぁ」


お互いに感想を聞くことはなかった。ただいつも通りに話をする。それはただ単純に恥ずかしいからとかじゃなくて、言わなくてもお互いの思っていることを何と無くわかっていたから。


「じゃあ3Fのフードコート行きましょう。確か、クレープとアイス隣同士でしたし」

「じゃあ叶恵がクレープね。後で半分ちょうだい」

「いいですよ。叶恵にも、アイス半分くださいね」

「どうしようかなぁ」


顔は見えないけど、先輩がニヤニヤしているのがわかった。

体制はそのままに、むすっとした表情で先輩を見上げれば、くすくすと笑いながら、叶恵のおでこにキスをしてくれた。


「行こうか」

「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る