16話「お誘いメッセージ」:叶恵side

あれから、しばらくして先輩は帰っていった。もちろん、やることやってだ。

先輩のクラスメイトの彼氏さんは、バッチリと写真を撮られて彼女に送られてしまったらしい。なぜか叶恵は泣きながら「なんでだよぉ」とかその生徒に言われたけど、叶恵は何も悪いことはしてない。そう、悪いことはしてない。

自分の権利を振りかざし、先輩のパフェのクリームを多くしたのも何も悪くない。


「いや、普通に悪いからね」


口に出てたようで、隣で一緒に調理担当をしている子にツっこまれてしまった。

少しだけ口を尖らせながら、そのまま作業を続ける。

先輩から評判がいいと言われているけど、それはあくまでもメイドと執事のクオリティが高いからで、注文自体は飲み物だけが大半を占めている。


「飲み物だけ頼んで、メイドや執事と記念写真。別に悪くはないけど、せっかくの調理担当なのに」


飲み物は、ペットボトルのジュースとお茶を注ぐだけの作業、内容的にはつまらない。


(こんなことなら、もっと先輩と一緒に回りたかったな)


先輩、今頃何やってるかな。もうお化け屋敷の方に戻ったのかな……あ、あの時の写メ撮りたかったな……

頭の中は先輩のことばかり。たった少しだけ会っただけで酷く満たされ、離れると早く会いたいという欲求にかられる。

不意に、エプロンの中に入れちたスマホにメッセージが届く。特にやることもないから、軽く手を拭いてからメッセージを確認する。

送り主は、数十分前に別れた天川先輩からだった。


《明日、暇?》


短い文章。

明日は日曜日。振替休日もあるし、特に用事は何も入れていない。

先輩のこの聞き方。何かのお誘いだな。


《はい。暇です。暇すぎて死にそうです》

《明日うちに来て。話してた絵、見せたいから》


華麗にスルーされてしまった。いや、先輩らしくていいんだけど……


「え!!」


絵だけに。ではなくて!!

先輩の家に、遊びに……そ、そんな……まだお付き合いもしてないのに先輩の家に!?明日は普通に休日だし、両親もいるかもしれないのに!!


「何してるの?」


あまりの情報量とその事実に込み上がる感情を必死に押さえ込んでいる。結果として、その場に膝をついて嗚咽のように声を漏らしながら体を震わせるという気持ち悪い行動をとってしまったいる。

例の絵……先輩がまた描き始めたっていう、天川夢乃の新作。それを

見ることができるなんて……


《ぜひ!!しっかりご両親にご挨拶しますので》


きっとまた先輩からのドライで鋭い言葉が飛んでくるんだろうなぁ。先輩の返信まだかなぁ。

ルンルン気分で先輩からの返信を待って入れば、数分後に返信が返ってくる。


《あぁ、両親は明日の夜まで用事でいないの。兄さんもバイトがあるし、挨拶とか気にしなくていいから》


あ、叶恵のHP0になっちゃった……そのままストンと後ろに倒れて天井を見上げる。

つまり明日、先輩の家には叶恵と先輩の二人だけ。神様、本当にありがとうございます。





無事に文化祭は終了。そして、もうすぐ冬休みが始まる。

長期の休み。そういえば、先輩と初めて会ったのは夏休みが明けてからだったな。

今から約2、3週間。先輩と会うことができなくなると思うと酷く寂しい。

メッセージを送ってもいいのかな。会いたいって言ったら会ってくれるかな。


「って、すっかり先輩のこと大好きになってるなぁ」


最初は、あの絵に一目惚れをした。

色のない叶恵の世界に色をくれたあの【クラゲ】の絵。

そこからその作品を書いた人に興味を持って、ネットに上がってる先輩の作品明後日、その作品から溢れる感性や感情にひどく胸を打たれた。

そして、やっと先輩と出会って作品への気持ちを口にして、次回作への期待を口にした瞬間に思いっきりぶたれた。


「まさに、一目惚れならぬ、一打たれ惚れとは」


その日から毎日のようの先輩のそばに行って、うざがられて、罵倒されて、蔑まれて。それでも諦めなかったのは、先輩が絵を描くのが好きだってことが分かっていたから。どんな拒絶しても、描かないと言い張っても、叶恵には先輩が「また絵を描きたい」そう言っているように見えた。


「さて、文化祭は無事に終わったけど……明日先輩の家に行くのか……吐きそう」


一つの障害を乗り越えたと思ったらまた次の障害が立ちはだかる。

先輩と出会って数ヶ月。ついに、先輩の御宅訪問が叶ったのだ!!

実際はただ先輩の新作を見に行くだけなのだが、正直叶恵の中では二の次だ。

先輩の家。そして絵があるであろう部屋は先輩のお部屋!!先輩が着替えたり、眠ったり、勉強したりと、先輩の生活空間に足を運ぶ!


「帰ったら家にある服をひっくり返さないと」


窓の外、グラウンドでは文化祭で使用した段ボールや木材を燃やすためのキャンプファイアーが燃えていて、少し先に設営されているステージでは告白大会が行われていた。

運営は事前に告白する相手を知っている相手を知っているから、サクラを使って必ずその相手をステージ付近にこさせるようにすると部活の先輩が言っていた。

つまり、叶恵がこうして教室の窓から外を眺めているということはそういうことである。


「叶恵ー、片付け終わったし帰ろう」

「ほーい」


行事自体は終わっているため、残りは自由参加。これ以上ここにいても対してやることもないため、片付けを済ませてクラスメイトたちと一緒に帰る。

先輩と一緒に帰りたかったけど、クラスの人と一緒にいるところを見かけたため、今日のところは我慢することにした。どうせ明日会えるしな。


「はぁ、もうすぐ冬休みかー」

「ねー」


吐く息が白く、空には薄く星空が浮かんでいる。

なんとなく、数年前に先輩が描いていた作品を思い出す。確かタイトルは【星屑】だったかな。

無数の星空。歩いていた少女の中に星が一つこぼれ落ちてきた絵だった。

もしかしたらあの絵みたいに急に星が落ちてきたりするのかな。そう思って、空に手を伸ばす。


「何してるの?」


そんな様子を先を歩いているクラスメイトに見られてしまった。なんだか恥ずかしくなってしまい。伸ばした手をゆっくりと下ろしながら「なんでもない」と少しだけ弱々しくつぶやく。

ちょっとだけ気まづさを感じつつも、区タスメイトたちと話をしながら帰宅する。

街はクリスマスの装飾でキラキラと輝いている。

今日が土曜日。月曜日が振替休日だから終業式が火曜日。その翌日からが冬休みとなる。

クリスマス開催はその数日後となる。


(先輩、何が欲しいかな)


頭の中でそんなことを考えながら、ぼんやりと前を歩くクラスメイトたちの会話を聞いていた。

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