第4話2人の時間

ニモがナモの店でSNSをスクロールしながら


ふと画面に映る雪景色を見て、口元に笑みを浮かべる。


「なぁ、明日雪見に行かね?」


ナモは手を止めることなく、いつも通りの調子で返す。


「何言ってんだ」


ニモには分かる。


その何気ない言葉の裏に、ナモの心が揺れているのを。


「……あー、ナモと雪だるま作りたいなあ」

ナモの手が一瞬止まる。


「……あー、ナモと雪合戦したいなあ」

ナモの眉がほんの少し動く。


「……行く」

「え?なんて??聞こえないなあ?」


ニヤニヤしながらニモが聞き返す。


「行くって言ってんだよ!!」


急に大きい声を出し、店内に響き渡る。


少し恥ずかしそうに眉をしかめるナモ。


「相変わらずナモちゃんは可愛いねえ♡」


ニモがニヤリと笑う。


「じゃあ明日!約束ね♡」


店を出るとき、ニモは振り向いてナモに指を向ける。


「お前が行きたいって思ってたの、俺にはバレバレなんだからな?」


ナモは苦笑しながらも否定しない。


こういう時、ニモには敵わないと知っているからだ。


翌朝、まだ空が暗い時間。


ナモの店のカウンターには、淹れたてのコーヒーの湯気が立ち昇っていた。


店の中は静かで、まだ誰も来ていない。


「おはよーさん。」


ニモが店の扉を開けて入ってきた。


寝癖を直す気配もなく、そのままカウンターの席に腰掛けると、ナモは黙ってコーヒーカップを差し出した。


「やっぱナモちゃんのコーヒーは最高だなぁ♡」


一口飲んで満足そうな表情を浮かべるニモ。


そんな様子を見ながら、ナモはニモの髪を結び、時計に目をやる。


「そろそろ行くか。」


「お、やる気満々だねぇ。いいねぇ♡」


ニモはカップを空にして立ち上がると、ナモの肩を軽く叩いた。


ナモは黙って店の鍵を閉め、二人は街の外へと向かうため、車へと歩いて行く。


エンジン音が静かな街の空気を震わせる。


車の中はまだ薄暗く、ヘッドライトだけが道を照らしていた。


「しかし、朝早すぎね?まだ星出てんだけど。」


「遠いからな。」


「ま、俺は助手席でぬくぬくと過ごさせてもらいますわ〜♡」


そう言ってニモがシートを倒そうとすると、ナモが片手で制止する。


「……寝るなよ。」


「んだよー。寂しがりやさんかよー。」


ニモは悪戯っぽく笑い、車は静かに走り出した。


夜明け前の静けさの中、ナモの車は街を離れ、雪のある場所を目指して進んでいた。


車内はエンジン音と時折鳴るウインカーの音だけが響いている。


ニモは助手席でカップを手に取り、一口すする。


「ん〜、やっぱりうめぇ。」


「そうかよ。」


ナモは前を見たまま、少しだけ口角を上げた。


その表情を見て、ニモも自然と笑みを浮かべる。


2人きりの時だけのナモがいる。


「……ん?」


ふと、ニモがナビ画面に目をやると、雪マークの警告が点灯していた。


なんとなく嫌な予感がした。


「ねぇナモさん?まさかとは思うけど、もちろんスタッドレスタイヤ履いてるよな?」


「……なにそれ?」


「おいおいおいおいおい!!!」


ニモは頭を抱えた。


車はどんどん標高の高い場所へ向かっている。


雪道に突入するのも時間の問題だった。


「お前、ノーマルタイヤで雪道行く気かよ!? マジで死ぬぞ!」


「そんなにヤバいのか?」


「ヤバいに決まってんだろ!!このまま死んだらお前の墓に『スタッドレス知らず』って書いてやるからな!!」


その言葉にナモは吹き出し、声を出して笑った。


「はははっ……お前、それ面白いな。」


「笑いごとじゃねぇよ!もう……とりあえず、スピード落として慎重に頼んますよ!」


「了解。」


ナモはアクセルをゆっくりと緩めた。


ニモは心配しながらも、ナモの笑顔を見て少しだけ肩の力を抜いた。


2人の旅はまだ始まったばかりだった。


「おい、ニモ」


肩を揺すられ、目を開ける。


「……んぁ?」


目の前には 一面の銀世界。


「……うわっ!! すげぇ!!!!」


飛び起きたニモが、窓を開けると ひんやりとした空気 が肌を刺す。


「はぁ…寒ぃけど、めちゃくちゃ綺麗じゃねぇか!!」


隣を見ると、ナモも 珍しく同じテンションで景色を見つめている。


「……これが、本物の雪か」


「よーし、遊ぶぞ!!」


「お前、ガキかよ」


そう言いつつ、ナモも 雪を手に取っていた。


ニモが投げた雪玉をナモが避ける。


ナモが反撃しようとした瞬間


すでに次の雪玉が飛んでくる!


「っ!」


ナモは咄嗟に雪玉を片手でキャッチ。


「ははっ、やるじゃねぇか!」


「そっちこそ」


——スパッ!!


「!? おいニモ、それずるいぞ!!」


ナモが放った 高速の雪玉を、ニモは地面に落ちていた木の枝で斬り落とす。


ニモは 枝をクルクル回しながらニヤリと笑う。


「へっへーん!ずるなんてないよーん!」

「チッ……」

ニヤリとしながらナモはすぐさま 精密射撃モード に切り替え、休むことなく 急所を狙い続ける!


—— が、全て斬り落とされる。


「……!」


ニモは 片手の木の枝で飛んでくる雪玉を全て斬り落としながら、もう片方の手で次の雪玉を作って投げてくる。


ナモは 呆れたように笑う。


「とんでもなく器用な奴」


「まーね♪」


ナモの雪玉の正確さも異常だった。


ニモが投げてくる玉を1つ目の玉を当てて相殺し


2つ目の雪玉は ニモの急所のみを正確に狙い放つ


その全て防ぎながら、ニモは 煽るように笑う。


「お前の方が器用すぎだろ!それに全部急所を狙ってくるとか、雪のようにクールだねぇ!」


ニモの言葉に、ナモは ニヤリと笑う。


「お前は本当にすげえよ。」


「え!褒めてんの!?」


満面の笑みのニモの額にナモの雪玉がクリーンヒットした。


「ばーか。そういうとこだぞ」


ニヤリと笑うナモ


「ひっでぇ~~!」


その後も軽口を叩き合いながらも攻撃の手は一切止まらない。


2人が同時に突撃しようとしたその瞬間


ズルッ!!


バランスを崩した2人は


勢いのまま 雪の中へダイブ!!


「うわぁぁあ!!!」


「ちょっ、バカ!!!」


ドサッ!!!


雪に埋もれたまま、しばらく 沈黙。


そして——


「……ははっ」


「っはははははは!!!!!」


雪まみれになった2人は 爆笑しながら転がる。


「……クソ楽しいな」

「んな!」


ナモがふと 雪を見つめながら呟く。


「……なあ、ニモ」

「ん?」


ナモは少し目を伏せ、静かに微笑む。


「……連れてきてくれて、ありがとうな」

「別にー!俺が行きたかっただけだし?」


ナモは小さく笑う。


「そうか」

「ま、雪もナモの嬉しそうな顔も見れたし、俺は満足っすよ!」


ナモはニモを見てクスッと笑う。


「……そうか」


冷たい空気の中


2人はどこか温かい気持ちで雪を眺めていた。


——翌日


ナモの店の ソファに座る2人。


どちらも 毛布を被り


ティッシュを片手に鼻をすすっている。


「……なあ、ニモ」


「ん?」


「……絶対また行こうな」


ニモは 鼻水をすすりながら ニヤッと笑う。


「おう!絶対行こう」


2人とも ぐしゃぐしゃな顔 なのに、どこか楽しそうだった。


(おわり)

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ナモとニモ @nanimonimo05

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