自分の人間性、あなたは証明できますか?

 交通事故による意識不明の状態から回復したジョー=Nノーマン・ダウ。その回復の陰には彼が事故前に開発していたアプリケーション《オルター・ブレイン》が関わっていた。

 《オルター・ブレイン》とは、利用者の脳の働きからフィードバックを得たAIが、「もう一人の自分」となって利用者の思考を補助するアプリだ。

 この《オルター》の機能に助けられ意識を回復したジョーだが、研究者である彼は今の自身の状況に対して一つの疑問を抱いてしまう。「《オルター》によって回復した自分の意識は本当に自分のものなのか?」

 科学技術の発展が生む哲学的・心理的な問題を描くという意味では正しくSFだし、人間の意識の正体を様々な角度から検証していくプロセスも実にSF的で大変読み応えがある。

 だが、本作のSFとしての真の面白さは最終話にこそある。自ら被験体となったジョーが最終的に発見した結論は、彼個人だけではなく人類全体の価値観を揺るがす非常にダイナミックなもの。「あくまでフィクションの話でしょ?」と思われるかもしれないが、ジョーが見出した真実は現実世界を生きる我々にも明確に否定できないのが恐ろしい。タイトルにある「オブ・ザ・デッド」要素の回収も巧みで、非常に秀逸なSFホラーだ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)