第14話 呼び出し
「はああっ⁉ 不良に絡まれてたあっ⁉」
「おい。声がデカい。あんまり聞かれて気持ちのいい話でもないだろ」
放課後の教室に残っていたクラスメイト達が、ぎょっとしてこっちを見ている。
これはもう、俺に対する評価が普通に戻ることはないだろうな。
「なんであたしに連絡しなかったわけ?」
ぐっと顔を近づけて、小声で怒鳴るという器用なことをしてくる妻崎。
「連絡したらお前、助けに来るだろうが」
「行くに決まってんでしょ!」
「……だからだよ」
こいつはいざって時、後先考えなくなるタイプだ。その分、危険も多い。
「俺は男で、お前は女。その意味くらい分かるよな」
「でもっ!」
「もし何かあってお前が傷つけられたら、俺は多分、自分を許せなくなると思う」
わかってくれ、という気持ちを込めた俺の言葉に、妻崎がぐぐぐっと唸った。
「……なんか、ずるい言い方」
「おっしゃるとおり。でも、こればっかりは譲れない」
体に酷い傷を負えば痕が残るように、心だって形を変えてしまう。
何かが欠けたり、削れたりすれば、物の見方が変わる。
元の自分、なんて面倒なことで悩むのは俺だけで十分だ。
「運が良く、財布は鞄の中だった。腹いせにちょっと小突かれただけだ」
「それにしたって許せないっての! 父さんに言って見つけてもらおう!」
「それは難しいだろ。変に恨まれても嫌だし、犬にでも噛まれたと思っとくよ」
相手がマジで犬だったとは言えない。
俺が顎の痣の辺りをさすり、苦く笑ったその時。
「こんちゃーっ、久郎くーん、いますかあ?」
ガラっと教室前方のドアが開いて、黒くて長いおさげ髪がひょいっと飛び込んできた。
「お、発見。おじゃましちゃいまぁす」
突然現れたいろはは全く遠慮する素振りすら見せず、ずかずかと教室を横断し、俺と妻崎のもとまでやって来た。教室中の注目がまたこっちに集まってくる。
勘弁してくれ。
「お話し中に悪いんだけどお、久郎くん、ちょっと来てくれる?」
ちらりと妻崎の方を一瞥した後、いろはは俺に向けてそう言った。
「お前、昨日……」
「いいから。お願い」
さっさと追い返そうとしたのだが、有無を言わさず手を握られてしまう。
隣で妻崎が息を呑むのがわかった。
そりゃ、絶句もする。俺も正直驚いた。
「………………わかったよ」
握られた手からひんやりとした感触が伝わってくる。俺はその手を振りほどくことができなかった。別に女に手を握られたからどうこうってわけじゃない。
今日はニヤケ面じゃなくて真顔、か。これは只事じゃなさそうだ。
「ありがと」
「ちょ、ちょっと! 久郎! どこ行くのっ?」
「ごめんね彼女さん。このイケメンくん、ちょっとだけ貸りるよお」
「えええっ?」
余計なこと言うんじゃねえ。
露骨にひるんだ妻崎を置き去りにして、いろはは足早に進む。
方向から察するに昨日の視聴覚室か。
「おい、どうした。何をそんなに焦ってる」
「まずいことになっちゃったあ。詳しい話は部室でね、久郎くん」
あれ、部室だったのか。一体、何部なんだろう。
「ちゃんと説明してもらうからな」
あと、さっさと手を放せ。恥ずかしい。
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