第7話 距離を取り、歩み寄り
「あれ誰? 知り合い?」
すれ違った釘原の長いおさげを訝し気にふり返りながら、妻崎が訊いてくる。
「いや、初対面。転校生に、興味があったんだとさ」
「ほーん」
腰に手を当てた妻崎は、座っている俺をじいっと見下ろしてきた。
やっぱ、背が高いな。あと、この角度からだとどうしても大きな胸が目に入る。
「……久郎、なんかあった?」
「何で?」
「いや、顔がまた、すげえ怖いから」
「確かに……ちょっと、イライラはしてたかもしれない」
息を吐き出しながら、顔に両手を当ててもみほぐす。
景気の悪い顔が、これで少しはマシになってくれればいいんだが。
「どしたん? 言ってみ?」
ドシン、と決して軽くなさそうな音を立てながら、妻崎は俺の横に胡坐をかいた。
「スカートだろ、お前」
「下にスパッツ履いてるから平気」
「そういう問題か?」
「……いいから!」
さっきの鬱陶しい女と違って、妻崎は黙って俺の返事を待つことにしたようだ。
心地よい沈黙のおかげで、自分が話したいこと、そして話してもいいことを整理できた。
「難しいけど……噛み合ってないというか、俺、明らかに浮いてるだろ」
「あー、坂本先生の授業の時のアレ?」
「それだけじゃ、ないんだ」
顔を上げると、植え込みの木々の向こうに校舎が見えた。
窓一枚隔てた向こう側に、行きかう生徒たち。
俺と同じ年か、違っていても二つ。そのはずの人達だ。
「ここに居るのに現実味が薄い、しっくりしない感じが消えない」
「だからこんな人のいないとこでこそこそしてたん?」
「こそこそってお前……まあ、正解だよ」
比べるものがなければ、少しは気楽になれると思ったんだがな。
そう言えば釘原が居なくなってから、こっちを盗み見ていた視線も消えた。
念のために俺は周囲に意識を飛ばして、気配を探る。
これは……本当にいなくなってるな。
「よし、決めた!」
少しの間、黙り込んでいた妻崎が突然、大きな声をあげた。
「決めたって、何を?」
「あたし、今日、部活休む!」
「部活?」
「うん。あたし、まだバレーボール続けてんだよね。でも、今日は休むわ」
具合が悪い、わけではなさそうだな。
「休むって、何でまた急に」
「決まってんでしょ。遊びに行くんだよ。久郎、放課後付き合って」
「……いいのか? 完全にサボりだろ」
「いいの! 明日二倍頑張るからさ。気にしなくても平気だって!」
バシンバシンと、スナップを効かせて背中を叩いてくる。
流石バレー部。普通に痛え。
「俺、最近の高校生が何して遊ぶかなんて知らないぞ?」
「それを教えに行くんでしょうが! いいからついて来なさいって」
ポンと、妻崎は自分の大きな胸を叩く。振動で揺れる。無自覚って怖い。
その目は、もう決定事項だと訴えかけてきていた。
これは、断れない。
「案内は、頼んだからな」
「まかせろ! つうか、あんたの弁当デカくない? 中どうなってんの?」
「今気づいたのかよ……」
その後はまあ、やかましかった。
だけど、久しぶりに楽しかったとも思う。
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