第3話
「よし、じゃあ行くか」
そう言いながらノウは自分の体の倍以上のカバンを背負いながら歩き出す。
「詰め込み過ぎじゃないですか?」
「そうか?」
「はい、一体何をこんなに詰め込んだですか」
「え、昼飯……」
「詰め込み過ぎでしょ!」
「気にしない、気にしないほら行くぞ」
ギルドでクエストを受けた2人は街を出て魔物の討伐に向かっている。
今回、2人が戦う魔物の名前はジャイアントボア。
名前の通りドデカい猪の魔物だ。
「調査報告書によると街から半日ほど歩いた所にある農村地周辺で目撃されてるようですね」
ココアは歩きながら報告書を読み込む。
「ジャイアントは農作物を荒らす魔物として有名だから」
腕を組みながらノウは言う。
「そうですね……報告書によると畑の半分以上が被害にあったとか」
ページをめくりながらココアは眉をひそめる。
「……早くぶっ倒さないとだな」
ノウは拳を握り締め気合を入れる。
「ですね……とりあえず村に寄って話を聞いてみましょう」
♦
荒らされた畑、村の者たちに活気はない。
「これは……」
「酷いな」
荒れ果てた畑見渡し、2人は思わず息を呑む。
「村の人だ声をかけてみよう」
「はい」
畑を前に肩を落とし暗い表情を浮かべる男に声をかける。
「すみません、少し話を聞いてもいいですか」
「なんだい……」
男は振り返りノウとココアを見る。
「お前さん達……もしかして冒険者か」
「はい、そうです私たちは討伐の依頼を受けてここに来ました」
「おお!そうか、それは何と嬉しいことか……」
弱弱しかった男の声に張りが戻る。
「奴が現れてからというもの、毎夜のように村の畑を荒らされて……村の者でなんとか追い払っていましたが、怪我だけが増える一方」
「冒険者の人達よどうか村を救ってくれ!」
「頭を上げてくれ、大丈夫。俺達が魔物を必ず討伐します」
「私たちに任せて下さい!」
「なんと心強いことか……!」
「そうだ、おじさん。村の人たちを集めてくれないか?魔物の情報が欲しいんだ」
「任せてくれ!わしに出来ることならなんでもしよう」
男はそう言うと村中を走り出した。
♦
「待っている間どうします?」
「そうだな……」
ココアの問いに顔を空に向けてノウは考える。
目を細めながらギラギラと輝く太陽を見つめる。
「飯にしよう……」
「ご飯ですか?でも……」
ココアは気まずそうにする。
「こんな状況でご飯なんて食べていいんでしょうか」
先程話した男の様子を思い出す。
頬が瘦せこけており数日間、満足にご飯を食べられてなさそうだった。
「こんな状況だから食うんだ、みんなで腹を満たすんだ」
「手伝ってくれココア俺達で作るぞ!スーパーウルトラゴージャスカレー!」
「何そのネーミングセンス!」
ココアはノウにツッコミつつ料理の手伝いをする。
「デカいカバン背負ってきた時は少し驚いたけどまさかこんなことを考えてたなんて」
具材を一口サイズにしながら話す。
「じいちゃんによく聞かされてたんだよ……空腹はこの世で一番苦しいことだって」
「だからお腹空いた奴がいたら飯を食わしてやるんだ。そしたらそいつは笑顔になるだろ」
にっこりとノウは笑顔を浮かべる。
「それで報告書見た時、畑に被害が出てるっての見てもしかしたらと思って準備したがどうやら正解だったな」
♦
「おーい連れて来たぞ、む何だかいい匂いが……」
グツグツと煮込まれたカレーの匂いが男の鼻に伝わる。
「お、良い所で来てくれた」
男に気づいたノウは男のもとに向かう。
「村の者を連れてきましたよ冒険者の方……それにしてもこの匂いは」
「ありがとうございます、この匂いは俺達でカレー作ったんですよ」
「ほう……カレー」
じゅるりと男と付いてきた村の人たちが涎を飲み込む。
「このカレー大量に作っちまったんですよ、だからどうですか一緒に食べませんか」
「本当にいいのか……」
「もちろん!」
「……うまい」
がぶがぶとカレーに喰らいつく村人たち暗かった表情が嘘みたいに笑顔になる。
「ありがとうございます。こんなに美味しいものを頂きなんとお礼をしたらいいか」
「お礼なんて気にしなくていいよ、それよりも魔物の情報が聞きたい」
「わかりました」
♦
「足跡、目撃証言からこの村の北に、ある山にいそうだな。」
「そうですね……ジャイアントボアの居場所をなんとなく掴めましたね」
「あぁ、後はそこを中心に探索して討伐だな」
「なるべく早く倒して村の人たちを安心させるぞ」
「はい!」
二人は意気込み村を出てジャイアントボアが住む山へと足を進める。
「お二方どうかご無事で!」
後ろを振り返ると村の人たちが集まって手を振っている。
「まかせろー!」
それに応えるようにノウ達は手を振り返す。
♦
「さてと……足跡はここで途切れているな」
鬱蒼とした木々に囲まれた山の中2人は足跡をたどっていた。
ただその足跡も途切れノウはどうしようかと悩む。
「ノウここは私に任せて」
ココアはそう言うと手を前にかざす。
「来てモフ子」
短くそう呟くとかざされた手の前にモフ子と呼ばれる大きな犬が現れる。
「わふ」
「おぉ!ワンコロ!かわいい!」
現れたモフ子にノウは反射的に抱き着く。
「ワンっ!」
ガブっ――!
「痛ってええええええ!」
モフ子はノウの腕から離れ勢いをつけて頭に噛みつく。
「モフ子!噛んじゃだめ!離して」
ココアは噛みついたモフ子を離そうと引っ張る。
「ノウ、あなたも急に抱きついたらダメでしょ」
「ごめんなさい」
ココアとモフ子の前で正座をしてノウは、謝罪する。
「モフ子も人を噛んじゃだめだよ」
「わん!」
「それじゃあモフ子の嗅覚を使ってジャイアントボアを探し出しましょう」
「わかった」
「よし、じゃあモフ子この足跡の主を見つけてきてくれる?」
「わん!」
ココアが尋ねると『任せろ』と言ったような感じ吠える。
クンクンと鼻を揺らし匂いを辿る。
ピクッと鼻が揺れると同時にモフ子は走り出した。
「どうやら見つけたみたいね」
「もう見つけたのか?早いな」
匂いを嗅いで数秒で走り出したモフ子にノウは目を見開く。
「モフ子を追いましょう」
モフ子を追うように2人は鬱蒼とした森を駆け出した。
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