第5話 怪しい男

 今日の職探しも徒労に終わった。疲れてマンションにたどり着くと、鍵が開いていた。中には大きなキャリーケースと共に女の姿が見えて。少し前まで私の愛人だった女が。

 女は言い訳がましく「私が悪かった」「もう一度やり直しましょう」「お金なら私も稼ぐから」など言ってきたが、戯言に付き合う気力も無かった。黙っていると、焦ったように、「また出直すね」などと言って部屋を出ようとした。その後ろ姿に向けて「刑事告発されることになった」と呟いた。女は立ち止まり、さらに「今まで買ったブランドものとか現金に換えると悪質とみなされ、売った人間は共犯とみなされるらしい」そう言うと、女は肩を震わせて出て行った。

 案の定、ここにあるブランドものを売って金にしようとでも思ったのだろう。あのキャリーケースは空で、回収前だったか。もちろん刑事告発なんで嘘だし、女が手切れ金の代わりに持って行っても構わなかったが。

 若く胸が大きいだけの女だった。私との生活で若さも衰え、価値も無くなった。私も金があるだけだったから、同じように無価値だ。だからさらに金を毟られるのが嫌だったのだろうか。これらを売ったとしても、焼石に水。今日も散々だった。

 コンビニエンスストアーのアルバイトにすら採用されなかった。その前は警備員も不採用。ビル管理の会社では酷く罵倒された。

「ところであなたは何か資格をお持ちですが」

「簿記と、英検2級、あと・・・」

「いやいや、それがうちの仕事に関係ありますか?」

「いえ」

「うちに役立つ資格はありますか」

「無いです」

「ビル管なって馬鹿でも出来ると思っているでしょ」

「いえ」

「セカンドキャリアのために、在職中に資格を取った爺どもが腐るほどいるのに、あんたは何も持たず、求職するって馬鹿なの。死にかけの爺に金掛けて資格とらそうなって奇特なやつはいないよ。たとえ無資格でできる仕事があって最低賃金で働く若者が有り余っているだよ」

黙っていると、全く無駄な時間取らせてとばかりに追い出された。

 そんな屈辱的なことを思い出したが、その通りなのでしょうがない。そう思えば、その会社を出るところで怪しい老人に声をかけられたことも思い出した。

「職をお探しでしょうか」

その男は70代くらいだろうか。上等な仕立てのスーツを着こなし、年に添わない何かしらの威圧感があった。

「もしよろしければ、こちらに連絡下さい」

と名刺を貰った。突然で怪しいかったのでそのままにしていた。多分、再就職できなかった定年退職者を狙った詐欺か貧困ビジネスかと。もう失うものも無いし、このままではじり貧だから、この老人の話だけでも聞いてみることにした。

 翌日、電話をかけると、面接の日にちと場所を指定をしてきた。


 


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