第21話


「さてと。私はさっきの林の木に用があるんだけど、波奈は?」

「私も木の採取。大きいのは面倒だから、細いの探して奥に行ったらあれがいたの」


 魔法弾は着弾時に結構大きな音がしていたから、この辺で連発したら結構な数の魔物が寄ってくることが大いにありうる。

 それを避けようとして土人形では、運がないとしか言いようがない。

 

 土人形達の魔石をさっさと回収して林に戻ってくる。


「そういえば、紅葉はどうやって回収する気だったの?」

「二人分ならこれくらいかな? ん、どうって、こうかな」


 目算で直径一メートルくらいの丸太に抱き着いて、気を思いっきり掴む。


「マスター、猿の真似ですか?」

「誰が」


 丸太に指が食い込んだところで飛んできたラーラの一言に、怒りを丸太に向ける。


「猿の真似をするかぁ!」


 少し抵抗があったけど、怒りのままに一気に引き抜く。


「ラーラ。乙女になんてこと言うのよ」

 

 変身を解除しつつ引き抜いた丸太を肩に担いで振り返ると、真っ青な顔をした波奈が紅葉のいる方を震える指で指していた。


「乙女は木を引き抜かないですし、肩に担ぎません」

「波奈、酷いと思わない?」

「うん。ごめん。その恰好は乙女っぽくないよ」


 むしろ蛮族っぽいって追撃。鈴音は凛々しいって励ましてくれたけど。


「紅葉、それ重くないの?」

「強化は掛けてるから大丈夫。早く戻ろう」

「そ、そうね」


 波奈さんも変身を解除してから、出口に向かって走り始める。

 少し走ったところで、波奈が何か決心したような顔になって話しかけてくる。


「ねぇ、良かったらだけど、班組まない?」

「波奈なら問題ないけど、私基本的に恩寵は使わないよ?」

「それは私も同じ。紅葉とは違って戦えないから、採取とかを中心にやってる」


 肩に担いだ丸太をちらっと見てから続いた言葉に、ちょっと心が痛む。


「じゃ、これからよろしくね」

「うん。よろしく」


 本当なら握手したいけれど、丸太があるから無理だった。


「濃いコンビ結成おめでとうございます」

「濃いって呼ばないで!」


 ラーラのお祝いの言葉に、紅葉と波奈の二人が声を揃えて抗議する。


「では、色物にします」

「色物も嫌ぁ!」

「ラーラ、それもやめて」

「ですが、戦隊英雄的なものと魔法少女的なものの二人組ですよ?」


 それを言われるとぐうの音も出ない。

 波奈の方を見ると目が合って、同時に苦笑する。


 そんなこんなで迷宮から脱出して探索センターに出ると、すごい勢いで視線が刺さる。

 周囲の視線が気になりつつ納品口に行くと、思いっきり顔を引き攣らせた職員さんに木と土人形の魔石を提出して処理してもらう。


「これで良し。後は学校に戻って班の申請かな」

「そうね。早く帰ろうか」


 手続きを終わらせて軽く伸びをしてから歩き出そうとしたところに、誰かが肩を組んでくる。


「残念だけど、こっちで話をしましょうか」

「あー、早瀬さんこんにちは」

「えっと、紅葉、この人は?」

「探索センターの副責任者の早瀬さん。何事ですか」

「土人形のことよ。他に気配はあった?」

 

 今出したばかりなのに、一体どこで情報を聞いたんだろう。


「私は感じなかったけれど、波奈は?」

「うーん。あ。走ってる途中で亀っぽいのを見たかな」

「亀系かぁ」


 全員で思いっきりため息をつく。

 亀系は最下級でも強敵認定されている。なんせ甲羅は物理と魔法の両方に高い耐性があり、一端の探索者でも攻撃が通らない、

 動きは鈍重極まりないけれど、甲羅以外の場所も硬い上に、首の可動性と俊敏性はけた違い。

 個体によっては魔法を雨のように打ち込んでくるものもいるから、要塞なんて言ったりもする。


「優子は亀と相性がいいから、紅葉ちゃんでも大丈夫かな。場合によってはお願いしてもいい?」

「拒否権あるんですか?」

「ないわね」 


 にっこにこの笑顔でバッサリ。

 というか、不破先生と相性がいいってことは、力で正面から潰す感じだよね? ……泣いていい? 無理かぁ。


「それじゃ、気をつけて帰りなさい」

「はーい」


 笑顔の早瀬さんに見送られて探索センターを出ると、波奈にラーラと鈴音を紹介しておく。

 ラーラに関してはいつも傍にいるから知っていたようだけど、さすがに鈴音には驚いていた。まぁ、剣が喋ったら驚くか。


 学校に着いたら早速班の申請。これはすんなり終わったんだけど、問題は昼ご飯を食べに食堂に来た時だった。


 注文した料理が出てきたのは、波奈が頼んだものが来てから数分後。


「ねぇ紅葉。その量食べるの?」

「注文してないんだけどね」


 目の前に置かれた山盛りの料理を見て、波奈の顔が引き攣ってる。たぶん私の顔も引き攣ってる。

 食堂のおばちゃんを見れば、一斉に親指を立てたグットサイン。


「不破先生の根回しかぁ。しょうがない」

「根回し? あ。そういえば落ちこぼれの特別訓練やってたね」

「あれは、まあ、事情があるんだけどね」 


 ちらっと鈴音を見たら、波奈も気が付いてくれたらしい。


「ふーん。大変そう。で、今後どうするの?」

「色々とあってバイトしながら、探索しつつ鍛錬って感じでやってる」

「私もバイトしながら探索」


 バイトの日は二日は被っていて、残りの一日は鍛錬に充てるとことに。探索は基本的に素材採取を中心にしつつ、鍛錬目的でやることに。

 

「波奈のバイトって何やってるの?」

「私? 吟夜門だよ」


 吟夜門は昼間は軽食屋で、夜間は居酒屋のお店。結構変わった名前の料理が多いけれど味はいいからそれなりに人気。

 

「紅葉はどこでバイトなの?」

「私はロマン一徹」

「え、あの変な武器ばっかり売ってる店?」

「否定はしないけど、結構愛用者はいるんだよ? 例えば不破先生みたいに」

「不破先生って、あの巨大ハンマーか」


 なんか遠くを見る目をしているのは見なかったことにしておこう。

 不意に携帯電話が鳴ったから、波奈に断って携帯電話を取り出すと、オーナーからだったので電話に出ることに。


「明日店に来てください。渡したいものが有ります」

「断りたいんですが」

「そうなったら学園にいきますが?」

「それは目立ちそうで嫌だなぁ」

「ではそういうことで」


 電話が切れたので携帯電話を置いて大きな溜息。波奈が目線だけで聞いてくる。


「バイト先のオーナーから呼出し」

「へー。私も行って良い?」

「問題ないよ。何を見ても自己責任だけど」

「何それ。こわっ」


 おどける波奈を横目に山盛り料理に挑む。量が多くて大変なんだけど、美味しいから苦しくはないんだよなぁ。

 

「ところで、波奈って普段武器とか使わないの?」

「短杖というか指揮棒? みたいなのは使えるんだけど、それ以外は持つと痺れるんだよね」


 あ。そこ同じなんだ。


「あ、もう一つあった。メリケンサックは使えるんだよね」

「なんでメリケンサック」


 最初から殴れって言ってるようなもんじゃん。物騒な魔法少女だね。


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