第18話
ボールを投げたときのように、何度も地面に跳ね返りながら飛んでいく真琴。
ようやく止まった時には、うつ伏せのままピクリとも動いていない。
倒れて動かない真琴に大鬼が近づいていき、少しの間見つめると、止めを刺すためなのか再び拳を振りかぶる。
拳が振り下ろされる寸前に体を滑り込ませ、命力で全力の強化を行い、振り下ろされる拳の側面を叩いて横へ逸らす。
何とか逸らしきって大鬼が体勢を整える前に、一歩踏み込んで全力の一撃をお腹に繰り出すと、大鬼は何事もなかったかのように平手で薙ぎ払おうとしてくる。
素早くしゃがみ込んで真琴を掴むと、全力で飛び上がって攻撃を躱し、鬼の顔に蹴りを入れるついでに足場にして大きく距離を取る。
真琴を地面に置いて様子を見ると、真琴は何とか意識を保ってはいるけど、指を一本も動かせそうにない状態。早めに医者に見せたほうがよさそう。
かといって目の前にいる大鬼は、お腹と顔を触った後仁王立ちになる。
まるで、何かしたのかって言わんばかりの態度。
「ラーラ、下の戦場は?」
「――まだ暫くかかりそうとのことです」
攻撃を避けることはできそうだけど、こっちの攻撃は蚊が刺した程度。真琴を抱えて逃げるのは難しいし、逃げても救援が来るまでっていうのは現実的じゃない。
このままだと私も真琴も助からない可能性が高い。
「しょうがないか」
「マスター? 諦めるのですか? 諦めるくらいならなぜ……」
真琴から離れながら大きく息を吸って、吐き出しながら恩寵を起動させると、命力と魂力が同時に活性化して体から溢れ出す。
「お父さんはいつだって誰かのために戦ってた。誰かを助けるために全力だった」
両手を軽く握ってお腹の前で交差させ、体からあふれ出た命力と魂力を一つにまとめ上げながら練り上げていく。
やがて力の純度が一定値まで高まった時、その力が輝く光として可視化される。
「私も、お父さんみたいに誰かを助けるって決めたんだ」
右足を一歩前に踏み出すと同時に力を流し、続けて並ぶように出した左足に力を流す。
交差させていた手の前後を入れ替えまがら胸の前へ持ち上げつつ、力を頭の上まで流すと、両腕を広げて指先まで力を流す。
「だから絶対にあきらめない。私のすべてを使って助ける!」
再び拳を握るとそこに力を集め、胸の前で拳を打ち合わせる。
ぶつかり合った力が拳の間にとどまり、少し拳の間隔を広げればそこで輝く球体となる。
ゆっくり拳の間隔を広げながら力を球体に流していき、テニスボールぐらいの大きさまで成長させる。
「誰も、私の前で死なせない!」
ゆっくりと頭上までもっていくと、右手で掴み、大きく息を吸い込む。
「へん! しん!」
握ったものを全力で握りつぶと、解放された力が体へ降りかかっていく。
やがて光は体の大きさに沿う薄手の服へと変化し、続けて腕や脚、胸部や腰回りを防護する装甲(黒ベースに茶色が一部入っている)へと変化していく。
最後に、東部に流線型の兜とバイザーが現れると拳を胸の前で打ち合わせて、半身をひいて構えを取る。
「迷宮戦隊メイズアース!」
名乗りを上げると同時に、紅葉の背後で盛大な音と同時に爆煙が上がる。
さっきまで余裕しゃくしゃくと言った顔をしていた大鬼が目を丸くしてぽかんと口を開けているのが、ちょっと面白い。
紅葉が腰を落とし駆け出す準備をすると、大鬼も我を取り戻して雄たけびを上げる。
紅葉と大鬼の二人が同時に地面を踏み砕いて行われた一歩。その一歩で距離が無くなり、お互いが移動の最中に引き絞っていた右手を繰り出す。
鋼がぶつかり合ったような重低音が大きく鳴り響く中、互いに弾かれるままに下がると、すぐに踏み込む。
大鬼の右の拳を左手をそっと添えてから下から掬い上げるように逸らし、間髪入れずに続く右足による蹴り上げを、半歩外側に置いた右足を軸に回ることで躱す。
回転の勢いを利用しながら繰り出した左の裏拳を、大鬼が地に着けていた左足一本で飛び上がって回避。上体を起こし、頭上で組んだ腕を着地と同時に振り下ろす。
紅葉は前に飛び込むことで回避し、大鬼と紅葉が背中合わせに立ち上がる。
一瞬の静寂。
同時に振り返りながら、繰り出す渾身の一撃。再びぶつかった拳が重低音を轟かせるかせる中、今度は下がらずに次の拳を繰り出す。
互いに相手の拳を逸らし、躱し、隙を作り自分の拳を撃ち込もうと攻撃を繰り出す。
数重にも及ぶ打ち合いの中、紅葉が攻撃を捌き損ねて体勢を崩すと、大鬼は裂帛の気合と共に右こぶしを振り下ろすように紅葉へ繰り出す。
「があぁぁぁ!」
紅葉はわざと体勢を崩したように見せていた体を戻し、大きく踏み込みながら体を伏せて拳の下を潜り抜け、大鬼の腹に両の拳をめり込ませる。
恩寵によって使えるようになった技の一つ、破岩掌。
打撃を加えると同時に力を内部へ浸透、破裂させることにより、内側と外側両方に致命的な一撃を齎す。
それが決まり、数メートル後退した大鬼が崩れ落ちる中、紅葉は高く飛び上がり、体を捻りながらその運動エネルギーの全てを使って渾身の跳び蹴りを繰り出す。
大鬼は倒れながらも横に転がることで回避、紅葉の蹴りは迷宮の床を砕き、破片が高く舞い上がる。
強烈な一撃をくらいながら無理やり回避したせいで、うまく体を起こせない大鬼に対し、紅葉は避けられることも想定していたため、着弾地点で片膝立ち。
決め時と判断した紅葉が駆け出すと、宙に舞い上がっていた床の破片が紅葉の右腕に吸い寄せられるように集まっていく。
大鬼へ攻撃するための位置まであと二歩。右腕に集まっていた破片が一つとなり巨大な右腕へと変化する。
ようやく上半身を起こしたところだった大鬼の目の前、最後の一歩。
一歩を踏みこみながら、飛び込んだ時の勢いと攻撃するための全身の動きを力として右腕に込め、全身全霊の一撃を振り下ろすように大鬼へぶつける。
大鬼は腕を顔の前に両腕を持ってきて防御の体制をとるが、紅葉の攻撃はさほどの抵抗も許さず地面へと叩き付け、先ほどの蹴りよりも広い範囲の床を爆砕。
砂塵が晴れたとき、衝撃でできたクレーターの中心に立っていたのは紅葉だけだった。
大鬼の魔石を拾い上げると、動けないでいた真琴に駆け寄り、勝手ではあるけれど真琴のカバンの中へ魔石を入れてから背負い上げると、出口に向かって歩き出す。
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