第17話

 確認作業を続けていると、校長先生がカウンターのところへ話に行くのが見えたから、合流することに。


「校長先生。どうしたんですか」

「ん? 佐世保さんか。いや、状況確認にね。やっぱり混乱しているときは現場が一番早く正確な情報が手に入るからね」

「それなら――」


 現状を伝えようとしたところ、マスコミが騒ぎを聞きつけたのか大勢入ってきて、目ざとく見つけた探索学校の校長先生めがけて走ってくる。

 巻き込まれそうになる直前、早瀬さんが腕を掴んで引いてくれたおかげで巻き込まれずに済んだ。

 なんか、鼻息荒い人もいるし、目が血走っている人もいるし、必死すぎて怖い。


 最初は探索センターの受付の人に向けて次から次へと質問が飛んでいき、だれが何を言っているのか聞き取れない。

 すっかり気圧された受付の人を見て、校長先生がマスコミの人を落ち着かせようと声を上げたら、今度は校長先生への質問が始まる。

 

 もう滅茶苦茶な状態でどう収集つけるんだろうと思っていたら、突然凄まじい威圧が襲い掛かってきて、誰もが口を閉ざし姿勢を正して固まる。

 この感じ、早瀬さんだ。というか、範囲が広すぎて向こうの方に集まっていた学生達にも届いてるみたいで、何故か正座になってる。

  

 肝心の早瀬さんは、静かになったセンター内を見渡した後、無表情でマスコミの皆さんに一礼。

 

「皆さん。今、探索センター及び探索学校は緊急事態に全力対応中です。皆さんへの対応で業務に支障が生じた場合、それは探索者や救護に向かった者たちの支援ができなくなると同義です。皆さんの行動のせいで死傷者が出るということです。しかるべき時にしかるべき場所で、情報はお伝えするので――」


 早瀬さんが大きく息を吸い込んでいき、さわやかな笑顔を浮かべる。


「蠅のごとく潰されたくなかったら、さっさとお帰り下さい」


 さあと言わんばかりに手で出入り口を指し示すと同時に威圧が強まり、居合わせた探索者の全員が正座。校長先生もピンと背筋を伸ばしている。


 流石にマスコミの皆さんも耐えることはできなかったらしく、全員が真っ青な顔をして探索センターから出ていく。


「さすが早瀬さん。伊達じゃないですね」

「紅葉ちゃん。なにが伊達じゃないのか、教えてくれるかな?」


 ガシッと頭を掴まれたので、無言で探索者の方を示すと、マスコミの退場と共に消えていた威圧感がまた放たれる。


「根性なし。もっと鍛えなさい」

「ご無体な」


 前線で戦ってる不破先生と威圧で張り合ってる人に言われてもね。

 早瀬さんが肩をもんでくるので身を任せていると、校長先生が大きく息を吐く。


「佐世保さんは平気そうですね」

「不破先生の威圧と早瀬さんの威圧は、何度か経験しているから慣れた」


 なんか、向こうの方にいる探索者の皆さんと学生の多くがドン引きした顔でこっち見てるんだけど、なんだろう。


 そんな時、迷宮内から帰還した四人の人影。誰かと思えば、いつもからかってくる二人がいる班だった。でも、真琴の姿がない。

 気になったから声をかけに行く。


「ねぇ、真琴はどうしたの」

「あんたには関係ないでしょ」

「必死に走ってきて疲れてんの。話しかけないでよ」


 まったく話にならない。どうしようかと思っていたら、ギャルっぽい見た目の子が近寄ってきて仲良さそうに話しかけ、言葉巧みに状況を聞き出してくれる。


 それによると、探索途中にでかい鬼っぽいのに遭遇。攻撃が効かなくて必死に逃げ回ったけど逃げ切ることはできそうになくて。

 もうだめかと思ったら、真琴が鬼っぽいのを引き付けて別の方向へ走っていったらしい。


 ただ、言い訳がましいし、挙動と視線が怪しい。そっと近づいてきていた早瀬さんも険しい表情。


 疲れたーだの何だので、真面なことを言わないことに業を煮やした校長先生が割り込み、鬼っぽいのに追いかけられたのは三階層だと聞き出す。


「早野さん、三階層への救援は」

「無理ね。今、大鬼と戦えるのは全員五層で戦ってるわ」


 早瀬さんのつらそうな顔を見た瞬間、迷宮に向かって走り始める。


「紅葉ちゃん!」


 早瀬さんの呼び止めるための鋭い声に一度後ろを振り返るけれど、足を止めることなく迷宮の中へ駆け込む。


 少しでも早く真琴のところへ行きたいけど、一番早く行ける命力による強化は、まだ試していないから怖くてできない。

 もどかしい思いをしながら全力で走っていると、ラーラが後ろから声をかけてくる。


「マスター、今の体の状態では危険です」

「分かってるけど、じっとしてるのは無理」

「マスター!」

「説教は後にして」

 

 走る先に大根が見えてくる。向こうも気が付いたのか臨戦態勢。

 

 勢いそのままに近づくと、、大根がパンチを繰り出してくる。ただ、今までよりも遅く見える。

 半歩分横に避けると、走る勢いのままに大根を蹴り上げる。

 空高く舞い上がった大根のことは無視してそのまま走りだす。


「マスター、大根の撃破を確認しました」


 必死に走ることしばし。途中からはラーラが先導してくれたおかげで、大根を蹴り上げながら爆走して迷うことなく第二階層に到着。


 一度止まって息を整えると、また走り始める。


 二層では大根に加えて南瓜と牛蒡が出るし、徒党を組むようになる。それでも強さ的には一層と大して変わらない。


 走りながら足元の石を拾い上げると、待ち構える大根に全力で投げつける。


 石が直撃した大根が崩れ落ち、横にいたもう一体の大根が駆け出してくるけど、さっきと同じように蹴り飛ばす。


 南瓜は動きが遅いから高く飛び上がってから、かかと落としの要領で踏み潰す。

 複数体いるときは、着地した足を軸に回し蹴りか、着地で体を思いっきり下げ、立ち上がる勢いを利用したアッパーカット。

 

「マスター、快進撃です。今まで大根にも勝てなかったと聞きましたが?」

「多分あの魔導具のおかげ」


 すっかり慣れてたから忘れてたけど、加重が常にかかっていたから筋力はかなり鍛えられたんだと思う。


 ほどなくして到着した三層。見える範囲に探索者の姿も魔物の姿もない。

 やみくもに走っても消耗するだけ。こういう時は、どうすれば。


「マスター。全力で探査をしてはどうですか? 今なら広範囲にできるかと」

「あ。ありがとうラーラ」


 目を閉じて集中し、探査の範囲をできる限り広げてみる。

 できるだけ広げてみたけど、認識できたのは魔物だけ。できるだけ遠くの魔物に狙いをつけて、そこまで移動。

 

 さっきまでと同じように処理した後、再度探査を行う。


 いくつかの魔物と思われる反応に、ちょっと離れたところで追いかけっこをしている反応が二つ。どっちも人型だけど、片方は小柄で、もう片方が三メートルぐらい。 


「……見つけた」


 一直線に駆け出すと、途中で三体の大根と二体の南瓜が進路を塞ぐように立ちはだかる。


 大根の一帯を蹴り飛ばすと、横にいた南瓜を掴んで他の大根を薙ぎ払う。


「邪魔をするなぁ!」


 掴んでいた南瓜を何故か動かないでいた残りの南瓜に叩き付ける。

 邪魔をする者がいなくなったのを確認してから、また走り始める。


 ようやく離れたところに大鬼と必死に走っている真琴の姿を見つける。


 その時、大鬼がいきなり加速して距離を詰めていき、大きな拳を振り上げる。


 真琴も必死に避けようとしていたけど、足が縺れたのか体勢を崩して攻撃を避けそこない、大きく飛ばされていく。


「真琴!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る