第15話
学校に戻ってくれば、当然注目の的。
いろんな視線が突き刺さる中、校長室に向かう。
校長室に入った時、最初に感じたのは頭を抱えた校長先生だった。
「校長先生、頭でも痛いんですか?」
「頭だけじゃなくて胃の方も。はぁ。で、その大剣は何ですか」
「知性を持った武器で、鈴音です」
「よろしくお願いします」
身動きしない校長先生の様子をうかがうこと少し。
「喋るのか。いや、知性を持つって……。不破先生、このことはどこまで知られているのでしょうか」
「細かいところまでわかっているのは自衛隊と探索センター、佐世保さんのバイト先。後は目撃情報が多数といったところです」
「そうですか」
「個人所有の魔法具なので、どうにでもなるかと」
「分かりました。こうしましょう。佐世保さん。寮の部屋を移動してもらいます。移動先は教員用の寮内、不破先生と同室。校内では不破先生と一緒に行動してください」
人前では喋らないこと。寮を移動する理由は、成績不良の生徒の集中鍛錬ということに。
「人前で喋らないだけでなんとかなりませんか。ほら、ラーラが制御しているとかそれっぽい理由かと思うし、それに、不破先生にも迷惑をかけるし」
「私は妹が出来たみたいで嬉しいわ」
「では、よろしくお願いしますね、不破先生」
「はい」
逃げ場なしか。私の胃が死んじゃうよ。
「マスターの自業自得かと」
「ラーラも冷たい」
こうして始まった新しい日々は恐ろしい物だった。
日が明ける前にいつもしている柔軟を始めたところ、不破先生から待ったがかかる。
「柔軟にも種類があります。ちゃんとやらないと意味がないですよ」
ということで始まった動的ストレッチで、インナーマッスルストレッチ。
普段よりもしっかりとやったストレッチは、すでに体が痛い。
ストレッチが終われば走り込み。
ジョギングなんてぬるいことは先生が許してくれない。
全力疾走で倒れるまで走る。倒れたら5分休憩でまた走る。合計十キロになるまで走り込み。
「し、死ぬ……」
「頑張ってください。マスター」
走り終わったらすぐに静的ストレッチ。ゆっくりと筋肉を伸ばしたら、次は食トレ。
例のごとくやってくる山盛りのご飯。不破先生の横に座っている斥候系を教えている野分先生は普通の量しか食べてない。交換をお願いしたら、絶対に嫌と拒絶された。
少し休憩した後は訓練場。
「模擬戦って、不破先生格闘系やったことあるんですか?」
「ありますが、加減ができないのでこれを使います」
得意げに見せてくれたのはハリセン。ロマン一徹で購入したハリセンシリーズの一つ、使用者が全力で叩いても威力のほとんどを音に変換することで与える痛みを調節してくれる一品。
つまり、威力が高ければ高いほど軽快な音がする。遊び心が溢れすぎている。
オーナー。どんだけ暇なんですか。
容赦の一切ない不破先生との模擬戦。構えだけでなく足裁き、避け方、重心の位置、反撃の仕方、とにかく全部が駄目だし。
倒れて動けなくなったら休憩。その間は鈴音が模擬戦。こっちも駄目だしというか、戦闘自体が初めてだから優しく指導。
お昼の食トレが終われば、午後はラーラによる授業。
「探索者だからと言って、手抜きは駄目です」
一般教養と税金関係(探索者は基本的に自営業扱い)、探索者として必要になる知識。とにかく必要な知識は多いから、エフェクトを駆使しながら進んでいく。
夕食を終えれば、徹底的な柔軟。
そんな毎日を過ごして、気が付けば二か月が過ぎていた。
午前中の模擬戦の結果、力尽きて倒れこんだ紅葉の傍に野分先生が寄ってくる。
「あれから二か月。一ミリも成長してないなんて才能がなさすぎ。いい加減探索者を諦めたらどう」
「いやです。諦めません」
探索者になっても早々大怪我をするか死ぬかするだけだと、野分先生は言うけれどそんな簡単に諦めるなんてできない。
「後で後悔する時間があればいいね」
頑固な紅葉に呆れた感じの野分先生の見守る中、模擬戦と柔軟を終えて寮に戻ってくると、巨大な荷物が届いていた。
人が入りそうな大きさの箱が四個。壁沿いに置かれてはいるけど、邪魔だからさっさと片付けろと怒られることに。
仕方なく不破先生と野分先生が手伝ってくれて開封することに。
背丈ほどの大きさの四角い盾で、裏面の持ち手部分が魔法工学の機構が付いている物が二枚。
同じような状態だけど、この字型になっているのが二枚。
カード状の魔精石数枚に、メモリーカード、円柱状の物体が一つ。
「盾にしては大きすぎるし、重量もありすぎる。なんなのこれ」
野分先生が疑問をこぼしている間に調べて判明した事実に頭を抱える。
「佐世保さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ただ呆れただけです」
盾の裏面にある機構の一部を開けると、盾と一緒に入っていた魔精石を中へ入れて炉を起動させる。
ある程度炉が安定するまでの間に、ラーラにメモリーカードを渡してインストールしてもらい、鈴音の柄に円柱状の物体を取り付ける。
すべて安定状態になったことを確認したら、ラーラの出番。特殊な回線を介して四個の盾を制御下に入れる。
「ラーラ、制御下に入れたら、四個とも浮かばせて」
「分かりました。動かしますので、気を付けてください」
盾が浮かび上がったところで、鈴音の番。柄に取付けたものを介して盾も体の一部だと認識させる。
「鈴音、盾を動かしてみて。負担とかどう? 大丈夫?」
「慣れるまで大変そうだけど、全然大丈夫」
無理はしていなさそうだから、次の確認。
「ラーラ、盾を展開してみて」
この字型の盾を盾の形へ変形させる。綺麗に隠されていた装甲板も展開して、しっかりとした大きな盾へと変化するのにかかる時間は数秒ほど。
運用方法を考えれば実戦での使用は、十分可能な範囲かな。
そんで、最後の確認を開始。
「鈴音、盾を集めて。大きいのはそっち、この字はこっち……そうそう。ラーラお願い」
一か所に集めると、ラーラの制御で普通の盾が裏面同士で合体。変形盾の方がこの字型になり、真ん中の部分が、普通盾の合体した部分の側面に合体。
あっという間に巨大な盾の完成。
「合体完了。問題は……ありません」
「ありがとう、ラーラ。最後に鈴音。真ん中に入ってみて」
「は、はい」
ちょっと固まっていた鈴音に声をかけて、真ん中へ入ってもらう。
「どう?」
「なんかすごくしっくりきます」
「それはよかった」
「佐世保さんこれってつまり?」
「浮動可変式防御機構付き大剣用の鞘ですね」
「ばっかじゃないの?」
野分先生の毒がさく裂。いや、私もそう思うけど。
ただの鞘でいいじゃん。って思うよ。本当にね。
「これは、さすがに床が抜けそうね」
「不破先生、それも大切だけど、そこじゃないと思う」
不破先生の武器と並んだら確実に抜けるだろうね。あれだけで床が悲鳴を上げているし。
「その辺は大丈夫です。常に起動状態なので、適切に管理さえしていれば宙に浮いていますので」
「暴走の可能性は」
「生成量を管理できるようになっているので、問題ありません」
おまけの機能として、鞘状態のときはラーラと同じ感情表現機能が使えるらしい。
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