第14話

 明くる日。

 お店に行くことになるんだけど、今日は不破先生が付き添いに。

 いやぁ、朝の日課を終えて部屋から出たら、不破先生がいた時の衝撃。思わず扉を閉じちゃったよ。

(秒で扉をあけられて威圧されました。朝からやめてください)


 少し怖い沈黙に耐えながら店に辿り着くと、整備室で大柄の人物が工具を磨いていた。

 ここまで大柄なのは土佐先輩しかいない。


「おはようございます。三毛先輩は?」

「おはよう。三毛なら今日は引きこもるそうだ」


 ああ。あれか。


「おはよう。あら、優子。どうしたの」

「つきそいよ。監視ともいうけど」


 さらっと恐ろしいこと言ってる。早瀬さんと一緒に入ってきた原さんが笑ってるし。

 

「三毛さんはいないの?」

「新作ギャルゲー攻略のため引きこもってます」

「土佐先輩、三毛先輩の名誉のために誤魔化そうよ」

「元々評価は低めだから、今更地の底にめり込んだくらいじゃ大して変わらないわ」

「めり込んじゃったら駄目なんじゃないかな」


 原さんのファローもなんか声に元気がないです。というか、原さんも評価低めなのか。ま、三毛先輩なら仕方ない。


 閑話休題。


 土佐先輩に金庫を開けてもらい、昨日の箱を取り出す。


「どうなっているかな」


 ワクワクしながら箱を開けてみる。


「見た目に変化なし」


 テストハンマーを片手に持った状態で、剣の柄を掴んで探ってみる。


「あ。成功してる」

「え、本当ですか」


 今日は大野さんが反応した。ま、技術系の人だから気になるのか。


「身体能力の大幅な上昇補正はなくなって、感覚系の強化はそのまま。精神汚染は無くなったけど……」

「けど?」

「……黙ってないで喋ったら?」


 紅葉が剣を持ったままの発言に、全員が首を傾げる。 


「えっと、なんて言えばいいのかな」

「おはよう。か、こんにちわ。かな」


 どこからともなく鈴の鳴るような感じの、高く澄んだ声が聞こえてくる。

 あれ。音は聞こえないはずなんだけど。どうなってるんだろう。


「えぇぇ! 喋った!」


 全員が絶叫したもんだから、剣もビクッと反応する。


「びっくりするから、急に大声出さないで」

「無理言うな。喋る武器なんて初めて聞いたぞ」


 土佐先輩からの突っ込みに、他の人も頷いている。


「喋る物は喋るで良いじゃないですか」

「いや、なかなかそうはいかないよ。自衛隊の方でも聞いたことはないですね。探索センターの方はどうですか」

「聞いたことないです」


 さっきから大野さんが大剣に顔を近づけて観察している方が気になるんだけど。


「ねぇ、名前あるの?」


 あ、話し合ってる他の人を無視して大野さんが質問を始めた。


「無いです」

「そうなんだ。名前ないのか。名前ってほしいかな」

「ください」


 食い気気味に答えた。


「名前か。どうしますか大野さん」

「ここは佐世保さんお願いします」

「いやいや、管理者の大野さんたちがどうぞ」

「いえいえ。製造責任という言葉があります。それに、君は誰に名前を付けてもらいたいですか」

「お母さまです!」


 一番の大声に固まる紅葉。吹き出す土佐先輩と不破先生と早瀬さん。


「えっと、私?」

「はい。お母さま!」


 おふ。子供の満面の笑みを幻視したよ。私子持ちになったのかぁ。


「いい名前考えなくちゃね。お母さん」

「そうね。頑張ってお母さん」


 早瀬さんと不破先生がからかってくるので睨んで……すぐにやめる。命惜しいもん。


「名前……名前……鈴の音って書いて鈴音でどうかな」

「鈴音! 私の名前!」


 わー、剣がちょっと震えてる。喜んでるのか。でも、ごめん。


「すごく喜んでるけど、原さんどうしよう」

「どうしたんですか?」

「私の恩恵、戦闘系だけど武器装備できないんですよ。鈴音を飾っとくしかできない」

「え、そうなんですか」


 そんな話聞いたことがないと原さんが喋っている間に、剣も重量が増す。これは落ち込んだのかな。


「やっぱり鈴音ちゃんも剣だから戦いたいのかな」


 大野さん、どこを察したんですか。少し不気味なんですけど。

 原さんは不破先生とかに私のこと聞いて、1階層の魔物にすら勝ててないこと聞いて驚いてるし。

 土佐先輩は腕組んで黙ってるし。どうすんだろうこれ。


「鈴音。どうせなら、強く願ってみたらどうだ? 割と魔法は自由らしいから、強い願いで何か変化があるかもしれない」

「土佐先輩、何言ってるんですか」

「現状、魔法的な不思議現象が起きているんだ。何か……いや、奇跡が起きてもおかしくはないだろう」

 

 よく見えないけど、どやってる気がする。そういえば、土佐先輩ってそういう方向好きだったなぁ。


 なんて考えていたら、鈴音が光り始めて、あっという間に目が開けてられないほどの光量となって何も見えなくなる。


 光が収まった時には、鈴音は形状はそのままに、性質を大きく変化させていた。


「……魂力生成、浮動、感覚共有、剣身強化」


 炉を止めてから繋いでいた導線を外してそっと机の上に鈴音を置くと、鈴音が刃先を床に向けた状態で空中に浮かび上がる。


「これでお母さんと戦える!」

「健気ないい子じゃないか」


 土佐先輩と大野さんが同じ体勢で頷いている。うん。ちょっと黙ってほしいかな。

  

「原さん、どうしよう」

「親子の仲を裂くほど、非情なことはできないかな」

「学校としても、佐世保さんに関しては必要な支援以外は干渉せずに見守ることになっています」


 自衛隊と関わるのなら、普通の学生と同じ対応はとれないだろう事態も多くなるからという判断らしい。


「お母さん、私と一緒じゃ、嫌なの?」


 今度は、子供の潤んだ上目遣いが幻視されて心が痛いんだけど!


「い、嫌じゃないよ」


 鞘はオーナーに事情を説明して用意してもらうことに。それは土佐先輩に任せて、ラーラの装甲板を外して今朝届いていた部品を取り付けていく。


「佐世保さん、それは何ですか?」

「例の炉の改良品を使ったドローンと、オーナーが新しく作った追加部品」


 追加部品はホログラム機能を利用した感情表現機能。態々魔法で漫画的感情表現を再現してみたらしい。オーナー暇なのかな。

 接続に問題ないことを確認したら、ラーラを再起動させる。 


「おはようございます」

「おはようラーラ。新しく機能を追加したんだけど、大丈夫そう?」

「確認します」


 少し待つと、ラーラの上でクラッカーが破裂する。


「把握できました。問題ないです」

「それならよかった。あと、この子は鈴音。鈴音、こっちはラーラ」

「ラーラお姉ちゃん?」

「お姉ちゃん。いい響きです」


 あれ。ラーラが姉になると、私二児の母になっちゃうんだけど。


「なんだか面白い家族構成になってきたね」

「原さん、楽しんでますね」


 原さんによると、早瀬さんと不破先生は微笑ましい物を見る感じの笑みを浮かべているらしい。

 

「記録用に写真撮らせてもらいますね」

「あ、はい。どうぞ」


 鈴音を入れていた箱は、原さんたちが持って帰って研究に使うんだと。

 そのうち鈴音の弟妹ができるのかな。


 写真撮影が終わったら、鈴音に布を巻き付けていく。むき出しだと捕まるからね。


「記録良し、写真良し。大野さん、大丈夫ですか」

「はい。問題ないです」

「では、私たちはこれで。佐世保さん。またよろしくお願いしますね」


 箱を抱えてあっという間に帰っていく。

 また、早瀬さんも不破先生と何か話した後、手を振って帰っていく。


「じゃ、土佐先輩私も帰ります」

「ああ。気を付けて帰れ」

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