第13話

 校長室から出た後は店まで一直線。

 店舗正面から入っていくと、カウンターに座っている店長に遭遇。

 何度が声をかけてみたけど、変化がない。今の状態だと無視されているのか眠っているのか分からないのがつらい。仕方ないのでカウンター下からハリセンを出して思いっきり振り下ろす。


「あぁぁあ! いった、痛いよ。あれ、紅葉ちゃんどうしたの」

「オーナーに用があるんだけど、連絡先知らないから」

「そうなの? じゃあ、はい」


 店長が通話状態にしてくれたスマホを貸してくれたから、受け取って事務室に移動する。

 すぐに繋がったようだけど、かなり不機嫌なような。


「オーナーすみません、佐世保です」

「ん、君か。何かあったのか」

 

 ラーラの状態と原因を伝えると、何かを漁る音が聞こえてくる。


「ふむ。他に異常はないのか」

「今のところ問題ないと思います」

「そうか。実は実験をしようと思って部品を送っている。恐らく明日には着くと思うから、それで大丈夫だと思う」

「実験」

「楽しみにしていたまえ」


 不安しかないんだが。

 ま、他に何ができるんだって話になるから、気にしないでいこう。

 

 今日はラーラを持って帰るのは危ない感じがするから、金庫に置いていこうと思い整備室に入れば、三毛先輩が何かを点検しているところだった。


「なんで紅葉がいるんだ? 暫く来ないっていってなかったっけ」

「オーナーに電話が必要だったのと、今夜はラーラを金庫に入れとこうと思って」 

「ふうん。ちょっと待ってろ」


 三毛先輩が金庫を開けてくれたから、ラーラを中へそっと置く。


「ありがとうございます」

「いひっ。気にすんな。それより何かあったのか」

「魔力暴走しかけた」

「きひっひっひぎゃぁぁぁ」


 三毛先輩が変な声を出しながら部屋の隅に逃げていく。誰が来たんだろうと紅葉が部屋の入り口の方へ意識を向ければ、確認するよりも先に声が聞こえて誰なのか判明する。


「変な声出してんじゃないわよ、根暗」

「ううううっさいわ、いきなりくんなし」

「三毛先輩どもりすぎ。じゃ、私は帰ります」


 仕事の邪魔をしないように、さっさと帰ろうとしたら、早瀬さんに捕獲された。

 ついでに、早瀬さん以外に二人の存在にも気が付く。


「自衛隊の原さんと大野さん。覚えてるでしょ? さ、紅葉ちゃんも一緒にいましょうね」


 学校には連絡入れておくからと逃げ道を完全に封鎖する早瀬さん。

 後ろの方で三毛先輩が引いているみたいだから、さぞ良い笑顔なんだろうなぁ。


「お久しぶりです原さん。私は必要ないですよね」

「残念だけど、いてくれると嬉しいですね」


 味方なし、慈悲も無し。仕方なく整備室の作業机の前に移動する。


「迷宮産の武器で変なのが見つかったから、専門家に視てもらおうと思いまして」


 あまりにも怪しい品物だから、鑑定したいそうで。


「三毛先輩、ここってそんな専門家だっけ?」

「ぎひっ。ただの武器屋だよ」

「まあまあ、そう言わず見てくださいよ」


 大野さんがケースから取り出して机の上に置いたのは、刃丈二メートル、刃幅六十センチを超えている大剣。


「いひっ。見たまんま装飾もない大剣だけど?」

「三毛さんの言う通り見た目はそうですね。ただ、持ってみると分かります」


 言わるままに慎重に柄を掴んだ三毛先輩が、次の瞬間には手を放して後退りしていく。


「いひっひ。なんだこれ」


 あ、混乱してる。何がおかしいんだろ。


「きひっ。柄が生暖かいし、脈打ってないかこれ」

「その通りです。ただ、鑑定士では何も分からず仕舞いでして」

「きひっ。俺じゃ無理」

「駄目なの?」


 早瀬さんが確認すると、三毛先輩は頭を振る。


「そもそも、俺は店のもんを何とかできる程度で、判定なんで無理無理。そういうのができるのは、もう店をやめた奴とそこにいる奴」


 突然三毛先輩が指差してくるから、その直前にさりげなく一歩横に避けてから、後ろを振り返って誰もいないのを確認してから視線を戻す。


「……三毛先輩、幽霊でもいるんですか?」

「紅葉お前だ。すっとぼけんな」

「ワタシバイトノガクセイ。ムズカシイコトワッカリマセン」

「紅葉ちゃん。今更通じないよ」 

「無駄な努力しないの」


 苦笑交じりの原さんと呆れた感じの早瀬さん。

 ここは引いたら負けな気がするの。


「ぎひっ。いいから、調べてみ?」 


 仕方なしに大剣の柄に触ってみる。

 感覚が消えてるから、生暖かいというのは感じないし、脈動も分からない。

 ただ、剣の中にある力が私に侵入してこようとする。 

 

 なんとなく、近くにあったテストハンマーで思いっきり叩くと侵入をやめて大人しくなる。

 

 その隙に内部へ力を通して探ってみようとすると、抵抗してくる。

 何度か刀身をしばきながら探っていき、ようやく核となる部分に到達。すぐに手を放す。

 

「いひっ。大丈夫か」

「大丈夫。うん。手を放しさえすればそれまでみたい」


「いったい何があったんですか」

「んー。装備していると身体能力に大幅な上昇補正をかけるのと、感覚系がちょっと強化される効果があるみたい」

「……副作用があるんですよね?」


 気持ち悪がる人がいれば、そう思うのは仕方ないよね。


「脳内麻薬の分泌を促して気分を向上させつつ、何かを斬ること以外考えられないように、徐々に精神汚染する感じ」

「きひっ。極悪じゃねぇか」

「紅葉さん。本当に大丈夫ですか」

「しばいたから大丈夫。もう触りたくないけど」


 そのままにしておくのも嫌ということで。大野さんが持ってきたときのケースに仕舞って鍵をかける。


「いひっ。どうするんすか、それ」

「当然破壊処分です。念のため尋ねますが、佐世保さん。どの程度で壊せると思いますか」

「迷宮の最前線で出てくるっていう魔物と同じぐらい?」


 店の常連の中には最前線に挑戦している人達がいる。消耗は尋常じゃないから、整備も一苦労。


「ぎひっ。無理じゃね」

「それって実質破壊不可能じゃない」

「三毛さん、早瀬さんの言う通りですね。何かないですか」


 なんでバイトに聞くかなぁ。そもそも素人がそう考えているだけなんだけど。

 そう思って大野さんの方を見ると、調査の時に叩いたりしたときにそんな感じはしていたらしい。


「駄目もとでお清めしてみますか」

「は?」


 初めて三人が声を揃えたことに笑いつつ部品室へ。

 棚を漁ってある魔法陣の板といくつかの素材を持って戻る。


「三毛先輩、金庫お願いします」

「お、おう」


 金庫からラーラを持ってくると、机の上に安置。


「原さん。浄化してみますか? この辺の使うんですけど」

 

 魔法陣の書かれた板、かなり等級の高い魔精石に導線、魔法の遮断性の高い板。結構高い品がいっぱい。


「経費で落とします。やってみてください」

「わーい。だたっで実験だー」

「こら紅葉、本音はしまえ」

 

 早瀬さんが紅葉ちゃんも、しっかりとこの店の一員なのねと呆れているのを聞きつつ、ササっと魔法の遮断性が高い板を加工して箱にすると、魔法陣の板と魔精石をつなげて、起動させる。


 つづけてもう一つの魔法陣の板を取り出すと、一部をいじってから導線を繋いでいく。


「それは?」

「トイレ掃除が面倒って店長が言ってるから使うようになった、清浄化の魔法陣」


 これ、浄化系の魔法効果を持たせてるんだよね。


 ラーラの魔導炉を先ほどの魔精石を使って起動させ、一緒に入れた魔法陣の板へ魂力を誘導。

 その状態で導線を大剣に繋ぐと、さっき作った箱に入れて蓋を閉じる。

 

「これで良し」

「……佐世保さん、今、炉の魂力を誘導してました?」


 珍しく大野さんから質問が来たから、頷いておくと大野さんが大きく口を開けたままになる。


「大野、どうした」

「あ、すみません。普通自分以外の力の誘導ってとんでもなく難しい作業なので、当たり前のようにやることに驚きました」


 さっき暴走寸前に一回やっていたから楽だっただけと返事をしたら、早瀬さんと三毛先輩から同時に頭を叩かれた。


 なんにしても、ラーラと大剣は金庫の中で保管して後はまた明日。ということでその場は解散することに。

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