第12話
あれから数日。相も変わらず鍛錬とバイトに明け暮れる日々だったけど。
八月の終わりとなる今日は、寮で過ごしているのが多いのか、いつになく人が多い。
食堂の片隅でテーブルの上にラーラを置いて一人ご飯を食べていると、真琴が近寄ってくる。
「ここ良い?」
「良いけど、どうしたの」
「ちょっと聞きたいことがあって」
そう言って席に着くとご飯を食べ始める。そのまま何度か顔が上下に動いていることから、何か言おうとしてためらっている感じかな。
真琴が言うまで待っていると、皿の上が綺麗になくなったあたりで、ようやく話をする気になったらしい。
「あのね、その丸いの、ドローンだよね」
「うん」
「貸してもらうことって、できないかな」
「ごめん、借り物だから無理」
「そっか」
断ったから話は終わりかと思えば、真琴と班を組んでいる四人が近寄ってきて机の上に身を乗り出す。
「無理って酷くない?」
「ちょっと貸してくれるだけ。いいでしょ?」
「無理なものは無理。ドローンが欲しければ自分たちで買いなよ」
ものすごく高いけど。初心者が使う量産品よりも高いけど。
一人がラーラに触ろうと手を伸ばすと、嫌がったラーラが浮かび上がって私の横に来る。
あれ、ラーラの動きが少し変。急いだほうがいいか。
急ぎ足で食器類を片付けると、抱き着かれそうになっているラーラを回収し、文句を言っている人達を無視して部屋に戻る。
「ラーラ、自己診断はできるの?」
「できません」
さすが試作品。肝心な機能を持ってない。
呆れながらもラーラを机の上に置くと、店から借りてきていた工具袋を取り出す。
「ラーラ、一度シャットダウンして」
「わかりました」
なんか、ドアを叩く音がしているけど無視。
シャットダウンしたのを信じて、外装を外して点検していく。
これもそれも問題ない。問題なのは……魔導炉か。これは、暴走しかけてるのか。
って、のんきに考えている場合じゃない。火のついた爆弾状態じゃん。
どうしよう。どうしよう。とりあえず、燃料の魔精石を取り出して……止まらない。
後は……あれだ。机の中から魔法陣を入れた板を取り出し、魔精石を入れるところに突っ込み、魔導炉を抱えて急いで窓を開けて大きく身を乗り出し、魔導炉を掲げる。
魔導炉が生成した魂力に自身の魂力を同調させて誘導。ちょっと誘導が難しいけど、昔の自分の力よりは動かせる。
慎重に動かして魔法陣の板に流していく。この板事態機能するか試験してないんだけど、うまくいきますように。
祈りながらなんとか流していると、魔法陣の板が発光した次の瞬間、大量のシャボン玉が空高く噴き上げていく。
「上手くいった……かな」
魔導炉のあふれていた魂力が少しづつ減っていき、シャボン玉が風に乗って拡散、えらい騒ぎになってきたところでようやく力を使い切って止まる。
やっと手を下せることにほっとした所で、寒気が走って背筋が伸びる。
「佐世保さん。ちょっといいかしら」
「はい」
いつの間にか、部屋の中に少し怒ってる寮監の水戸さんが入ってきていたらしい。この人も怒ると怖い人。
魔導炉を服の下に入れてから、水戸さんの前に行って正座をする。
「何を隠したの?」
「えっとですね、これの実験してました」
服の下から魔法陣の板だけを取り出して、水戸さんへ差し出す。
「……これがさっきのシャボン玉の魔法?」
「はい。込めた魂力の量によって、生成するシャボン玉の強度と量が変化するようにしてます」
「そう。作った理由と実験した理由は?」
「作りたくなったのと実験したかったからです」
なんとなく作りたくなったから、作りました。実験もできて満足。……あれ、これってあの店の人達みたいじゃない?
「少し反省しなさい」
「はい」
「それと、佐世保さん。ドローン持っているのよね。他の人に貸してあげられないの?」
「さっき聞かれたときも答えたけど、預かり物なので無理です」
「預かり物なら仕方ないわね。後、片づけはちゃんとしなさい」
「はい。すみませんでした」
水戸さんが部屋から出ていくまで頭を下げておく。
一応、扉まで近づいて扉が閉まっているのと誰もいないのを確認。ようやく一息つくことができる。
「それにしても、なんだって暴走なんてしたのやら」
色々と調べてみたところ、どうやら生成量より使用量が少ないときに、余分な力を放出又は消費する場所がないから行き場を失った力が暴走につながったみたい。
今日は机の上に転がっていることが多かったのと、記録を取っていなかったから消費量が少なかったらしい。
そうなると、バッテリーを搭載してそっちに流すか、他の方法で消費できるようにするか。
どっちにしても、私じゃこれ以上の対処ができない。店に持っていくか。
ラーラを元に戻して起動させずに机に置いたまま、道具の片づけと部屋の掃除。後は大量に作ったシャボン玉は、自然と割れるから気にしないでいいか。
窓の外が大変メルヘンチックになってるんだけど。気にしたら負けだ。きっと。
ラーラを抱えて部屋を出ると、目の前に水戸さんがいた。本当に心臓止まるかと思った。
「佐世保さん。校長先生が呼んでいます。校長室へ行くように」
「えッと今すぐですか」
「当然今すぐです」
「はい」
店に行きたかったけどしょうがない。
そのまま校長室に向かうと、結構な数の視線を感じる。なんで見られてるんだろう。
※シャボン玉生成は結構な時間があったため、多くの生徒が目撃していたのが理由。
校長室に着いたら、ノックをして中へ入る。
「失礼します」
中にいたのは、正面の机に座っている校長先生と思われる人と、右側にも誰かいる。誰なんだろう。
「佐世保さん。魔法陣の実験をしたそうですね」
校長先生と思わしき人が机の上で手を組んで喋り始める。
「はい」
「なぜ実験をしたのですか?」
「作りたかったので作りました。あと、使ってみたくなりました」
実は、作ったのは結構前になる。他にも小さな花火を打ち上げるのとかもあるんだけど、知られたらまずいよね。きっと。
「次から実験するときは事前に申請するように」
「申し訳ありませんでした」
余計なことを考えて察せられたら困るんで、さっさと頭を下げておく。
「佐世保さん。しばらくは迷宮探索を禁止します。かわりに授業を受けるように」
「分かりました」
授業退屈で嫌なんだよなぁ。でも仕方ないか。
「話は変わりますが、その抱えているのはドローンですか?」
「え、あ、はい。そうです」
「撮影は十分注意すること。それと、盗難には気を付けること。後は、できればでいいですが、授業中にドローンを他の人にも使わせてあげてくれませんか?」
ドローンは高級品。購入できる人は少ないから、少しでも体験をさせたいらしい。
「今問題があって持ち主に返すところでして。あと、すぐに手の届かないところへ持っていかれるのはちょっと困るので、無理です」
「どうしてもですか?」
ん-。校長先生なら巻き込んだ方が楽かな。良心が痛まないこともないんだけど、面倒だから巻き込んじゃえ。
「実はこれ、軍事機密級の部品が使われた、安全設計のない試作品で、いつ不安定になるか分からなくて」
「軍事機密級ですか。よくもまぁ分かりやすい嘘を出しましたね。学生が関わるようなことではないということぐらい、直ぐに分かることで……」
傍にいた人が腕を組みながら、呆れたような感じで質問してくるけど、校長先生が片手をあげて制する。
「佐世保さん。この間の自衛隊の方と関係がある話とみていいですか」
「部品に関しては関りがあります」
「そうですか。佐世保さんは不思議な縁を持っているようですね」
「校長、信じるのですか」
「あなたが休んでいた日ですが、自衛隊の方が佐世保さんを訪ねてきたことがあります。あの時の状況から考えて、佐世保さんならおかしな話ではないでしょう」
校長先生が味方に付いた! なんて遊んでる場合じゃないか。
「佐世保さん。こちらの準備がありますので、次からはなるべく早めに教えてください。勿論話せる範囲だけで構いません」
「分かりました。気を付けます」
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