第11話

 お客さんを見送った後は、整備室に戻って武器の手入れを始める。

 どれもこれもロマンが滾った結果だから、奇妙な形や機能を持つものばかり。点検が本当に面倒。


「マスター、怪しいのが来ました」

「へ、なに、怪しいの?」

 

 点検していると、ラーラが変ことを言うから思わず手を止めて見上げる。


「クヒヒヒって笑い声が、聞こえませんでしたか?」

「集中していたから」


 なんか、ラーラが呆れたような気がする。


「あれ。紅葉だ」

「おはようございます、目が見えないんで初見だと判別できないんですけど、誰?」

「いひっ。目が見えないのに仕事してるとか、変態?」

「失敬な。三毛先輩に言われたくないです」


 いつでも特殊機能付きのダボダボのパーカーを着ていて特徴的な笑い声を持つ先輩。

 パーカーについているフードを被ると、真っ暗な中に赤い光が二つ浮かんで見える機能付きのパーカーは、体感温度も調整してくれるらしいが、傍から見れば怪しいことこの上ないし、夏は見るのも暑苦しいので近くにいてほしくなかったりする。


「他の人は、行方不明?」

「三笠先輩は瀕死の状態で発見されて病院で緊急治療中、他の先輩は行方不明」

「マジで?」


 点検を再開しながら伝えると、三毛先輩が他の部屋に行こうとしていたのをやめて振り返る。


「第一発見者です。で、三毛先輩はどうしたんですか」

「そろそろお金が尽きそうになったから、バイトしにきたんだけど、やばい感じ?」

「仕事特盛り」

「きひっ」


 あ、ドン引きした。三毛先輩は顔色で判断ができないけど、笑い方で判断できる。


「マスター、三毛先輩はバイトとして大丈夫なのでしょうか」

「ここのバイトは時間自由だから」


 自由すぎるから、バイトがまったくいない日もある。


「いひっ。社畜シリーズがあるんだけど、誰の?」

「三笠先輩の飲み残し」

「きひっ。大丈夫かな。あ、電話」

「お願いします」


 あー、刃こぼれ酷いなぁ。これは打ち直しっと。


「ぎひっ。病院から、一命はとりとめたけど再起不能だって。店長に言ってくる」

「店長なら表で寝てるよ」

「……ろくでなしめ」


 先輩、素になって笑い声忘れてますよ。


「警察と探索センターには連絡が言ってるけど、他に必要なとこってあるのかな」

「いひっ。家族は?」

「あ」


 完全に忘れてた。呆れたらしい三毛先輩が連絡しに行ってくれるのを見送る。


「マスター。その大きな指はなんですか」

「ん、指シリーズの一つだね」

「は?」

「親指なら支援魔法、人差し指なら魔導砲、中指なら魔物集め、薬指なら恋まじない」


 小指は存在しない。なんでだろうね。


「頭大丈夫なんですかね」

「まともだったらこの店は存在しないよ」


 ついでに言うと、店員もまともなのがいない。


「ぎゃははははは」

「な、なにごとですか」

「落ち着いて、ラーラ」


 距離があると声が判断しづらいんだけど、大声だったので辛うじて聞き取れた。


「あれは、コミュ障根暗ヒッキーの助けを求める悲鳴だよ」

「おい待て‼ 根暗言うなぁ!」


 三毛先輩が大声をあげながら勢いよく飛び込んでくる。その後に続いて早瀬さんが中へ入ってくる。


「三毛先輩、後ろに隠れないでくださいよ」

「なるほど。だからね……」

「うっさいわ! ちょっとこう、態勢を整えるだけだし!」

 

 ラーラと三毛先輩が睨み合いを始めると、早瀬さんが頭が痛いという仕草をする。

 

「どういう状況?」

「この後ろにいるのが三毛先輩です。不審者ですが、店員です」

「不審者言うな!」

「どこをどう見ても不審者よ!」

「ぎゃはははは」

 

 否定しようとした三毛先輩に被せるように早瀬さんが一喝すると、悲しげな悲鳴……悲鳴? を上げて部品室へ逃げていく。

 

「それで、早瀬さんはどうしたんですか?」

「ん? あ。三笠さんのことは聞いた?」

「はい。再起不能だそうで」

「正確に言うと、薬中で神経系統に影響が残っていて、日常生活も介助が必要な状態よ」


 死ななかったのは良いけど、先輩また会えるかな。


「それで、もうお昼よ。いつまで仕事してるのよ」

「そりゃ、仕事が溜まってるんで」

「一旦そこまでにしてご飯にしましょ。あ、そこの根暗君も来る?」

「根暗言うんじゃねえ!」


 部屋の入り口から顔だけ出して反論する姿は少し情けないんだけど。


「綺麗なお姉さんとご飯を食べられるなんてめったにない機会でしょ?」

「だが断る! なんかやばい気配がするから、断固拒否する!」


 自分のことを綺麗と言い切れる早瀬さんはすごいね。ま、実際綺麗な人なのは間違ってないんだけど。


「そう。じゃ、紅葉ちゃんは借りていくわね」


 拒否権なしという訳で、さっと片付けて探索センターの職員食堂へ。

 なんか、入り口付近に不破先生がいるんだけど。


「あー。用事を思い出したから、先に行っててくれませんか」

 

 逃げようとしたけど、素早く肩を掴まれて逃げられない。


「だめ。話しながら楽しく食べましょ。色々と」


 早瀬さんと不破先生に囲まれて楽しいお食事の時間。泣いていい?


 お昼はまたしてもおごってくれたんだけど、この四人分はありそうな特盛は泣きたい。


「紅葉ちゃんは整備の腕がいいみたいだけど、どこで覚えたの?」

「んぐ。先輩と探索学校の音声授業です」


 その先輩はバイトを辞めてからたまに連絡を取ってはいるけど、相も変わらず寝食を惜しんで魔法工学にのめりこんでいる。


「本当にいろいろと規格外ね。そういえば、あのお店は防具とか扱ってないの?」

「防具はなんか昂ぶらないって」

 

 パワードスーツ的な物を考えたことはあるらしいけど、結局身体能力の方が高いから意味がなかったらしい。

 ただ、あの店の顧客でもある不破先生は、納得できなかったようで。


「盾も防具では?」

「不破先生、あれは武器です」


 撃発機能付きの物とか、縁を研いで刃になっているものとか、ブーメランになっていたり、射撃用の機構が付いていたり。

 主目的が武器で、たまたま盾の形をしているだけだって。

 そういう意味で、ガントレットとかもあったりする。


「変な武器が多いわね」

「優子の使ってる武器も大概よ」

「大概ですね」


 あれ、身体能力が高くないとまともに振り回すことができないからね。実際、ある探索者は腰の骨を折る重傷を負ったらしい。


「ねぇ、紅葉ちゃん。ラーラも何か武器が仕込んであったりするの?」

「触った時に視た感じだと、武器はなかったですね」


 本当に珍しいことに、ラーラは心臓部以外は普通に機能てんこ盛りのドローンでしかない。


「そのうち、武装が付く可能性はあると思う」


 何か仕込めそうな余剰スペースがあるんだよね。魂力的にも余剰はあるみたいだし。


「不破先生、ギブしてもいいですか」

「この間より食べているから、良しとしましょう」


 残った分は不破先生が綺麗に食べました。……同じ物食べてた筈なんだけど、どこに消えたんだろう。

 

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