第10話

「おや。佐世保さんに早瀬さん、お久しぶりです。それと、どちらさまで?」

「あ、戸ケ里さん、お久しぶりです。少しお邪魔しています」

「オーナー? 久しぶりです。この人は早瀬さん、この大槌の使い手です。ちょっと順番無視の整備していたところです」

「それはそれは。愛用していただきありがとうございます。何かご要望等ありますか?」

「いえ、こちらこそありがとうございます。今のところは大丈夫です」


 さっき改造したばかりだしね。

 兎に角。オーナーには先ほど発生した先輩の件を伝えておく。


「はぁ。あの馬鹿はどこにいますか」

「店頭の床に転がってます」

「早瀬さんもご迷惑をおかけして申し訳ない」


 深く頭を下げるオーナーに、早瀬さんがこの後のことは先輩の容体が確定した後にと返していく。

 

「それで、オーナーはどうして店に?」

「佐世保さんに使ってもらおうと思って持ってきたところでね」


 そう言いながら作業机の上に置いたのは、バスケットボールぐらいの球体。


「佐世保さんなら見ただけで分かるだろうから、説明は大丈夫かな?」

「あ。今訓練用の魔導具で見えてないんで説明お願いします」


 見えてないのにここに何しに来ているのかとつぶやく声が聞こえてきたけど、咳払いの後に説明してくれる。


「これは試作型自立浮遊式ドローンだよ」


 転がってきたそれを掴んで調べていると、あることに気が付く。


「オーナー。これって、あれ使ってます?」

「さすがだね。よく気が付いた。……本当に見えてないのかね」

「命力と魂力でどうにかしているんで、こういうのは前よりわかりますね」


 さっき気が付いたんだけど。微弱な魂力を流していくと、魔法陣とかの形がはっきりとわかるんだよね。何を書いているのか分からない場合は通用しないけど。


「あの、あれって何です?」

「早瀬さんあれですよ。迷彩服の人が持ってたやつ」

「迷彩服? あ! あれですか。大丈夫なんですか?」

「分かりません。性能面も含め、安全確認はこれからなので」


 絶対いい笑顔で言ってるよ、このオーナー。


「佐世保さんは魔導工学において非凡な才能を持っています。いつでも点検、調整ができる上に、探索者学校生という時間の調整も可能で、この店の店員。適役です」

「オーナー、いくらなんでも試作品は遠慮したいです」


 この店の試作品は、とりあえず作ってみた程度の物だけがその名前を与えられる。安全設計すらまったくしていないのだ。

 ちなみに。お客さんに出しているのは、扱い上試作品にしているけれど、安全設計をしているから試作品の名前が付いていない。


「これには移動用の術式、撮影機能、送信機能、本体を守る防御機能、映像と音声の出力、特製のAIが付いています。燃料の魔精石は上からです」


 つまり、高性能撮影用ドローンということらしい。

 

「稼働試験はどこでもできます。ちゃんとプライバシーは守りますよ。それに、丁度いいのでは?」


 よくわからないので起動してみると、机の上から浮かび上がって顔の前で静止する。


「なにこれ。なんでそこから動かないの?」

「マスター。名前下さい」

「名前……名前……ラーラでどう」

「分かりました。よろしくお願いします」


 完全に適当だけど了承してくれたみたいで、お辞儀のように動いた後、少し上の方へ移動していく。

 オーナーが、ラーラに大人しい賑やかさで支援をと命令しているんだけど、どういうことだろうか。


「では、後のことは任せます。レポートをお願いしますね」

 

 オーナーは先輩の様子を見に病院へ行くそうで、早瀬さんもついていくことに。

 不破先生も武器を持って学校へ戻っていったので、店には私一人。


「それで、何するのですか?」

「店を閉めてから、預かり品の整備かな」


 ラーラを連れて整備室から店頭へ行くと、人が二人いると教えてくれる。

 一人は床で寝ていて、壁際で眺めているのが一人。


「すいませーん。店閉めるんで、出るか買うかしてくれませんか」


 なんて声をかけながら、ドアにかけていた開店の札をひっくり返して閉店にしておく。


「あの、質問良いでしょうか」

「どうぞー」

「ドリルありますか? こう、でかいの」


 大人一人分より大きい物を手振りで示してくる。


「その大きさは特注ですね。何掘るの?」

「トレントです」

 

 竜皮樹と呼ばれる奴で、その名の通り竜に引けを取らない程に硬い。なお、幹回り十メートル程の大木だとか。


「無理じゃないかな。構造上押し付け続ける必要があるけど、それを放っておくほど間抜けな奴じゃないだろうし」

「かといって、チェーンソーでも同じでは?」


 同じだね。なんかあったかな。


「あ。倒すだけならアトミックボムがあるよ」

「ふぁっ!」

「マスター、アウトです」

「名前だけだから問題なし」

 

 形状はハンドボールと同じ大きさの球体。スイッチを押すと、周囲にある魂力などの力を強制的に収集、内包した暴走を意味する魔法陣にすべてつぎ込む。

 結果、魔力暴走を引き起こして大爆発するっていう消耗品。


「買う時は身分確認と誓約書が必要で、使う時までGPSとかを使った監視付になるよ」

「まともじゃなさすぎる! なんでそんなものを」

「ロマンが滾ったそうです」


 この店はロマンが滾る店だから、倫理観なんてロマンの前には塵悪と同じらしい。


「いりますか?」

「いりません」

「ですよね」


「マスター、ブースター付きの斧とか無いのですか?」

「産廃になって素材に戻ったよ」

「一番まともそうなのに、どうしてですか?」

「柔らかい物ならいいけど、硬いものにぶつかると刃が潰れるし、最悪砕け散る」


 普通に使っていても石とかにぶつかれば、刃は欠ける。勢いが強ければそのものが砕ける。ごく自然なことだ。


「使った人に向けて砕け散った部分が散弾みたいに襲い掛かって、生死の境を数日過ごしたって」


 その後無事回復したそうだけど、二度と斧を手にしないと誓ったらしい。


「ちょうど良いものがないんですね」

「奥の手はありますよ?」

「なんか聞くのも怖いんだけど、なんでしょうか」

「妖刀斬魔っていう刀。魂力をつぎ込めばつぎ込むほどに切れ味と斬撃範囲が上がる一品」


 このぐらいの大きさと、両手を広げておく。


「聞くとまともそうだけど……」

「マスター、デメリットは?」

「現状一太刀で壊れるのと、その一太刀で最大の威力を発揮するために、魔精石と有線でつなぐ必要がある」


 縦四十センチ、横二十センチ、厚み二十センチというバカみたいな大きさの魔精石を使うことになる。(中身を瞬時に移すための術式付き)


「その分、威力は折り紙付き。実際に下位の竜種を真っ二つにしてる。その後使用者は昏倒して今も眠ってるけど」

「駄目な奴じゃん」

「マスター……」


 なんか本人の魂力も持っていったんだって。理由が分からないから改良もできないので、そのままになってる。


「命をとした最高の一撃! ロマンが滾る! だって」

「滾らねぇよ。他をあたります」

「ですよね。ありがとうございました」

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