第4話
結局、探索センター内にある職員用の食堂へ移動。部外者であることを指摘するも、さっきの作業ですっかり身内判定になるとか。
いつの間にか巻き込まれてるんだけど。
「冗談はともかく、探索者を目指すなら、ちゃんと食べないとだめよ」
かつ丼をおごってくれたから、早瀬さんを拝んでおく。
「それにしても、紅葉ちゃんの恩寵は制作系?」
「いえ、戦闘系です」
「え、戦闘系? それにしては強化していないような」
「はい。強化はないです」
早瀬さんが驚いているのはしょうがない。というか、強化しているのかどうか分かるのかこの人。
「でも、自力で身につける方では補正があるような気がしないでもない」
「それは気のせいよ。きっと。恩寵はどんな感じなの」
「恥ずかしいから使いたくないんで、分からないです」
「なにそれ」
そんなことを言うのであれば、探索者なんてやらない方がいい。そう続けた早瀬さんは何か悲しそうな顔をしている。
なんかあったのかもしれないけど、私だって引き下がれない。
「私は、父のように誰かを助けられる探索者になりたいんです」
「父って、名前を聞いても?」
「佐世保輝明です」
探索者として迷宮に潜りながら、探索者としての時間の大半を後輩の指導や遭難者の救助をやっていた父は、いつも目を輝かせていた。
救助要請を受けて迷宮に向かった父の背中が、最後の記憶。すごく大きくて、あこがれた背中だった。
「佐世保輝明……そっか。あの人の娘だったのね」
「知ってるんですか?」
「勿論。あの人は探索者協会が頼りにしていた、凄腕の救護者だったから」
なんとなく喋る空気じゃなかったから、黙ったまま完食。久しぶりにお腹いっぱい。
「新古品の武器があるけど、使う?」
「それって、横流し?」
「ただの廃棄処分。資源の無駄を減らすって意味で、再利用は可。ただ、探索者の武器って凡庸品って訳にはいかないから、再利用が少ないの」
微妙な重心の違いや、長さ、重さなど、しっくりくるものでないと、変な癖になることがあるし、いざという時にそれが理由で失敗なんてこともある。命を預けるからこそ、妥協はできないのが武器選び。
「そうなんだ。でも、武器使えないんです」
武器として使おうとすると、静電気の強力な奴が来て痛みで持っていられなくなる。思いつく限りの武器で試して使えるものがなかったから、格闘技を覚えた。
「……本当に、前途多難な恩寵みたいね。大丈夫なの?」
「それでもと決めたので」
仕方ないと言わんばかりの苦笑が、妙に似合っているのは、口にしない方がいいかな。
「さて、いい時間だし、戻ろっか」
「ただのアルバイトなんで、関わらない方がいいですよね」
逃げたくて言ってみたけど、早瀬さんのにっこりした笑顔に負けを悟る。
「さ、行きましょ?」
「うい」
ドナドナでも歌うか。
そんなこんなで店の整備室に戻ると、オーナーと鬼瓦さんが巨大ロボットの話で盛り上がっていた。
そんな大きなもの作っても、迷宮内で使えないのにどうするんだか。
待ち人はまだ来ていないようなので、盾の整備を再開。金砕棒と同じで、打音検査に異常あり。
撃発機構の固定部付近だから、無茶な使い方の反動かな。これ、どうするんだろう。
他に異常はないので、撃発機構を取り付けて壁際に置いておく。後片付けと清掃を終えて、書類を所定の場所に置いたところで迷彩服を着た四十代ぐらいの男とスーツを着た五十代ぐらいの男が店長に案内されて入ってくる。
「お待たせしました」
入ってきた二人は早瀬さんに挨拶を済ませると、オーナーに向けて敬礼をする。
「探索者との折衝役担当の原といいます。こっちは技術部の大野です」
「この店のオーナー、戸ケ里です。こっちはバイトで探索者学校生の佐世保です」
怪訝そうな視線が来たのでお辞儀を返しておく。顔を上げたらすぐに金庫から楽器ケースを取り出して、作業机の上に置くと一目散に距離を取る。
「すごい金庫ですね」
「ありがとうございます。問題は、この武器にある、これですね」
オーナーがさっとケースを開けて自衛隊の二人に見えるように向きを変ええて、中身を手で示す。
大野さんがどこからか取り出した工具で部品を取り外して、様々な角度から眺め始めると大きく頷く。
「間違いないですね」
「そうか。見つかったか」
大きな溜息を吐いた原さんによると、これは最新型の魔導炉。
通常の発電所と同じ大きさのそれを限界まで小さくしてみようと開発された物を、技術科の隊員がどこかの企業に横流ししたそうで。
雲隠れした隊員はどうにか捕まえたけど、頑なに喋ろうとしないから事情は分からないままとのこと。
「行方の分からなかったものが、武器になってここにある。と」
オーナーが険しい顔で締めくくる。状況的に、怪しいのはオーナー。いつもロマンとか言って変なもの作ってるからなぁ。
早瀬さんが顎に手を当てながら、気になることがあると呟く。
「ロッカーに放置していたのはどうしてでしょうか」
「使い捨てに近いからではないでしょうか」
「使い捨て? 魔導炉が?」
使い捨ての言葉に自衛隊の二人以外が驚く。
「発生させる魔力量が小さくて、まともに使えないんです。せいぜい、下級の魔法一発分を三十分ぐらいかける感じです」
うん。少ない。戦闘では使い物にならない。
「小型にしてみた、程度なんですよ、これ」
「だとすると……佐世保さん、この辺分解できますか?」
オーナーが指差したあたりを観察して、理由に気が付いたから慎重に分解を行う。
無事に蓄魔器と呼ばれるバッテリーにあたるものを取り外し、ケースを外して中に入っている魔精石を見える状態にしてオーナーに渡す。
「佐世保さんだっけ、手慣れてるね」
「初めてですけど、なんとなく」
原さんが自衛隊に興味ない? と聞いてきたので断っておく。
「これは五星工業製で間違いなさそうですね。しかも、これように調整した一点物」
「といいますと?」
原さんの疑問に、オーナーがケースの内側と魔精石の一部を指さして答える。
「五星工業は、この辺の細工が独自の物なんです」
そもそも、蓄魔器は製造会社毎に特徴があるそうで。それゆえに、会社ごとの個性ともいえるものが生まれるらしい。
「なるほど。五星ですか。ここ数年急に大きくなってきた陰に黒い噂がありましたが……」
「今回の件を見るに、あながち間違いでもなさそうですね」
原さんに続けて鬼瓦さんがメモを取りながら引き継ぐ。
結局、各々の立場上、見過ごせないとして引き続き連携して調査をしていくことで話が纏まる。
……私アルバイトなんで、いないところで話してほしいんだけど。
「ではそういうことで。で、戸ケ里さん、この魔導炉ですが」
話が纏まったところで、大野さんが魔導炉をゆっくりと机の上に置く。
「差し上げますので、お好きなようにしてください」
「……技術公開していない品を、好きなように?」
「ええ。ロマンにかける情熱、それを実現する技術力があることは、一部で有名です。なので、任せてみるのも一考の価値があるという声が上がっていたんです」
まあ、変なのをよく作っているのは事実かな。整備するの大変なんだけど。
「では、喜んでやらせていただきます」
悪役が悪巧みしているときの笑顔を浮かべて大野さんとオーナーが握手している。
「……ろくでもない物が出てきそう」
「同意するわ」
早瀬さんが同意してくれたけど、鬼瓦さんと原さんは苦笑するばかり。二人はそっち側か。
その後は解散したので仕事に戻ることに。この日は他に預かり品がなかったので、魔法工学の授業音声を聞きながらその辺にあるもので筋トレ。
ここは重量物に困らないから、鍛錬に最適。……バイトしてるよ? ちゃんと。
バイトが終われば、寮に戻って勉強とストレッチ。明日の準備をしておやすみなさい。
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