―――――――――――未来都市国家『モルド』。

魔法と科学が混同するこの世界にて、トップクラスの科学力と魔導士の実力を持ち合わせているこの国。

そんな国には、王族に次ぐ権力を持つ二つの上流貴族が存在する。

まずは、『ヴェーク』。古くから国や王族の護衛を務める近衛騎士団の精鋭たちを輩出している公爵家であり、当主であるトラオム・ヴェークはこのモルドで最も最強と言われる公爵騎士であり、近衛騎士団の団長を務めている。

そして、もう一方は『ヴァイト』。こちらも古くから魔法騎士団の精鋭を輩出している公爵家だ。そして、この物語の主人公は、このヴァイト家に生まれた少女である。

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―――――――ある日のヴァイト家で、一人の赤ん坊が誕生した。

ヴァイト家の始祖である『ヌル・ヴァイト』と同じ、輝く銀髪に長く白い睫毛に縁取られた、翡翠色の瞳の、女の子の赤ん坊だ。

少女の赤ん坊は生後一ヶ月にて、初めての魔法を行使した。

その魔法とは上級魔法の一つである『焔魔球（フラム・ルント）』という炎魔法。巨大な超高温の火球を生み出し、対象に投げつげる大量の魔（マナ）を消費する上級魔法だ。

そんな魔法を、生後一ヶ月の赤ん坊が使った。

驚きのその事実に、その赤ん坊には多くの人間から多大な期待が降り掛かった。

その赤ん坊には、それぞれの世代に必ず一人はいる実力が高い子供につけられる『星』の名―――――――『ミザール・ヴァイト』と名付けられた。

そして、多くの人間の期待を背負い続けるその少女は現在、六歳。

「ミザールお嬢様ー？どこにいるのですかー？」

ヴァイト家の屋敷にて。

使用人の声が大きく響く。そんな使用人を、天井にぶら下がっているきらびやかなシャンデリアに逆さまで足をかけている少女が見下ろす。

肩まで伸ばされた銀髪を逆さまにしており、その宝石のような翡翠の瞳で、使用人を上から見つめている。

少女はそんな状態で、悩ましげに形の良い顎に手を添えた。

「うーん･･････重力魔法は使い勝手がいいけど、やっぱり魔（マナ）消費が少し激しいんよねー」

少女はそう小声で言いながら、使用人が去ったのを見てレッドカーペットが敷かれた廊下へと、音もなく飛び降りる。

少女の名は、ミザール・ヴァイト。前述の通り、生まれてすぐに才能を発揮させた『神童』と評された少女。

ミザールは年相応に見えない大人びた表情をしながら、自分の掌を見つめた。

「重力魔法は体全体にかけるんじゃなくて、身体の一部だけにかけた方が良さそう。そうすれば、魔（マナ）の消費も少し抑えれるし」

自分の掌を開閉しながら、ミザールは溜息をつく。

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――――――――――ここで、一つあることを語っておこう。

この世界には、かつて英雄と称えられた魔女が存在していた。

名は『終焉（しゅうえん）の魔女』アーディ。闇で世界を覆い尽くそうとしていた『輪廻（りんね）』から人々を救った偉大なる魔女。

だが、そんな彼女の行方はいつしか、分からなくなってしまう。

理由は簡単だ。

アーディは、そのあらゆる現象などへの好奇心や探究心で多くの魔法を生み出してきた。だが、彼女にも限界はある。それは知識の限界だ。

彼女が有する多くの知識は、アーディの脳には収まりきらなかった。

そして、アーディは『禁忌魔法』の一つに手を出してしまう。

『禁忌魔法』とは、魔法政府より使用を禁止されている魔法のことを指す。

アーディが使用したのは、その『禁忌魔法』の一つである、『転生魔法』だ。

強制的に命を絶ち、拠り所がなくなった魂を数年から数百年先の世界に新たに生まれ変われさせる、『精神（ガイスト）廻遊（ヴァンデルグ）』。

その魔法が禁止されている理由は、"強制的に命を絶つ"というのが挙げられる。

簡単に説明すると、自殺だ。それもその方法は、何故か必ず残酷な方法となっている。

アーディはそれを使用し、ナイフで自分の喉を貫いた。

そして、アーディの魂は新たに『ミザール・ヴァイト』という少女の身体に宿った。

前世の記憶や知識、その全てが消えなかった魂が、少女の身体に宿ったのだ。