第一章 イルㇽの集落“シマ”⑪

「すまないが、先に部隊へ戻っていてくれ」


 憲兵隊の一人が輪から抜けた。集落で神威を目の当たりにした憲兵隊は皆、顔面蒼白であるが特にその男は顔色が悪く、誰も止めなかった。


 男が土色の顔をしていたのには理由がある。


(生きていた……)


 首長代理を庇った女が緑火祭で目撃した配流されているはずの女であることに気付いてしまった。


(悪神が、生きている)


 これはあってはならぬことだ。


(一刻も早く副皇にお報せせねば)


 男はまず森を抜けるため、馬を走らせようと手綱を引いた。


 だが、刹那、馬が竿立ちになり、男は落馬を余儀なくされた。


 地面に身体を打ち付け呻き声を上げたが、必死の形相で這いつくばる。不憫な男の頭上に陰が落ちた。


 男が顔を上げるや、その人物は大地に縫い付けるようにして、剣を刺し貫いた。


 血飛沫が顔に罹っても、その人物は顔色ひとつ変えず剣を引き抜く。

絶命した男の遺体を埋める様は、魑魅類いを想像させるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る