第五王女 オルキス

「———と言う経緯じゃ、父上よ」


「う……む、まさかこんなところまで侵入されるとは……」



 カイゼル暗殺未遂の後、深夜にも拘わらず会議室には国王グラシエルをはじめ、第一王女アリスティラ、第二王女イルルジーナ、第三王女ウーサリッサ、第四王女エレイアの5人が集まっていた。


 議題は当然、『カイゼル暗殺未遂事件』について。

 当然早急に対応する必要があるため、こうして深夜にも拘わらず集まったのだった。



「カイゼル君とオルキスは呼ばなくて良いのです?」


「あんなことがあったばかりだ。カイゼルも怖がっているだろう……今日はひとまず休ませてやるべきだ。オルキスには彼の護衛と、気を紛らわせる相手を頼んである」


「オルキスが……私じゃダメ、なの?」


「貴女は今回の件を一番よく知っているでしょう? 私達に教えてくださいませ」


「そう……イルルお姉様も、私をカイゼル君と離そうとするの……?」


「違いますわ。わたくしは貴女を褒めていますのよ? 貴女がいなければカイゼル君が危なかったのですし、貴女はカイゼル君を守ったのですから」


「ふふ……そう、カイゼル君を守った、の……♡」


「すまぬ、妾が侵入を許してしもうた」


「仕方あるまい……そ奴が身に着けていた装備品、様々な魔法が付与されておる。アリスティラの魔法が張り巡らされているのを知っていて、それを搔い潜るために用意したのだろう」



 アリスティラほどの魔法の使い手を掻い潜るほどの魔道具ともなれば、国宝級と言っても差し支えないほどの一品だ。


 そんなものを使ってまでカイゼルの暗殺を企てるとは……。



「アリスティラ、どこの差し金かは分かるか?」


「分からぬ。せめて遺体があれば調べようもあったのだが……」


「カイゼル君を狙ったのだから、当たり前」


「まぁよい。カイゼルを暗殺して利がある者など、王家に婿入りして玉座を狙っておった上級貴族家の者じゃろう」


「であろうな……」



 長らく男子が生まれていなかった王家は、他の上級貴族の令息を迎え入れ、次期国王に据えることも視野に入れていた。


 当然候補となる貴族達は色めき立ったのだが、カイゼルが生まれたことによって全て白紙になったのだ。


 ともなれば、そうなった原因……カイゼルを消し、再び玉座に座るチャンスを……と考えるバカな貴族が現れてもおかしくはないだろう。



 今この場で、そのことに気づいていない者はいない。



「ともかく、今後はもう少しカイゼルの守りを強化しておこう」


「それが先決ですわね……教会の権力を利用すれば、他家の内情も多少は調べられそうですわ」



 そうして、彼女達を中心に今回の暗殺未遂事件の復讐……対策が立てられていく。そんな彼女達を見て、国王グラシエルはふと思った。


 ———これ、儂がいなくても国は充分回るのでは?


 と。



        ♢♢♢♢



「カ・イ・ゼ・ル・くぅん♪」


「オルキス姉様!?」



 エレイアが部屋を後にしてから数分、部屋にやってきたのはオルキス———第五王女『オルキス・ハルメシア』であった。


 12歳である彼女は俺と2つしか変わらないということで、何かと一緒に行動することの多い相手だ。


 艶やかな金髪をツインテールに結び、王女であるにも関わらずひらひらしたドレスよりもタイトな服を好む。


 と言うのも、彼女は魔力を纏って体術で戦うスタイルが得意であり、その邪魔にならない服装を常に着ているのだ。



 そのせいで、年齢不相応に発育の良いオルキスのボディラインがはっきりと見えてしまい、彼女の距離の近さと相まって……正直、性癖が歪む。



 っと、変な考えは置いておいて……満面の笑みでやって来たオルキスは、ベッドに寝転ぶ俺の横にボフッと飛び込んできた。



「カイゼルくんの部屋に侵入者だなんて、大変だったねぇ」


「まぁ……でもエレイア姉様に助けてもらいました」


「カイゼルくん大丈夫? カイゼルくん、錬成術はすっごいけどカイゼルくん自身はよわよわなんだから……怖くて泣いてるかと思ったんだけど」


「泣きませんよ……もう子供じゃないんですから」


「え———? 泣いてたらお姉さんが慰めてあげようと思ったのに……カイゼルくんも、お姉さんに慰めてほしいでしょ?♡」


「ちょっ———んむっ!?」



 いきなり抱き着いてきたオルキスは、俺を胸に抱いてわしゃわしゃと撫でまわしてくる。いい匂いと温かさと弾力が……性癖が壊れる音が聞こえる……



「それにしても、カイゼルくんを狙うなんてバカだよねぇ? 頭よわよわおじさんなのかな?」


「結構危なかったですけどね……。僕も守られてばかりじゃ嫌ですから、一応調査用のゴーレムも作ったんですよ」


「また新しいの作ったの? カイゼルくん、そればっかりじゃん」


「だって新しいの作るの楽しいですし……変ですか?」


「別にそんなこと言ってませんけどー? ただ、カイゼルくんってゴーレムとかの話しかできなさそうで、オルキスが聞いてあげないと可哀想だし♡」



 煽るようにニマニマと笑顔を浮かべるオルキス。そんな風にからかってくるのはいつものことだから、俺は全然気にしてない。


 むしろ、『話を聞いてあげないと』と思ってるからか、俺の知らないところで錬成術についてかなり勉強してるようなのだ。


 普通そんなことは知らないだろ……という知識も持っていて、『早口過ぎウケるww』とか言いながらも、専門的な会話に普通についてくるという……。



 影の努力を怠らないメスガキと言ったところか。そんなだから、何を言われても嫌いになれないんだよね、本当に。



 と言うわけで俺は、ニコニコと笑顔でオタク話を聞いてくれる優しいメスガキお姉さんオルキスに、夢中になってゴーレム談義を始めるのだった。

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