第三王女 ウーサリッサ

 さて、イルルジーナにああ言われてしまった手前、次やらかしたら"メッ"されるのは確定だ。


 少し間をおかないとダメだろう。


 うーん、でもなぁ……ゴーレムの強化も武器の開発も結局危険が伴うし、じゃあ何をするかと言われると……やることがない。



 時間は夕方ぐらいか。

 ……夕食の時間も近いだろうし、ウサ姉・・・を呼びに行くついでに、ちょっと構ってもらおうかな。



        ♢♢♢♢



 自室の窓を開け、キョロキョロと周囲を見回して誰も居ないことを確認。風魔法の応用で身体を浮き上がらせた俺は、窓から出て王宮の屋上にあたる場所へと向かう。


 第三王女『ウーサリッサ・ハルメシア』は、いつもこの場所にいることが多い。彼女曰く、『精神を集中させるのに丁度良い』のだとか。


 俺が屋上に到着すると、案の定夕日に向かって座禅を組み、静かに瞑目する女性の姿があった。



 艶やかな黒髪を後ろで一つに束ね、東洋ののような着物に身を包んで佇む姿は、一切のブレがない。


 意識しないと気にしなくなって・・・・・・・・しまう・・・ほど希薄な存在感は、彼女がそれほどまでに自然と一体になっていることを示していた。



 傍らには、鞘に納められた刀が一本。ウーサリッサは剣術に長けており、『近接戦闘では彼女に並ぶ者は居ない』と言われるほどだ。


 かといって魔法が弱いわけでもなく、単純な戦闘能力では六姉弟の中では最強だろう。


 初対面であったら、ほとんどの人がウーサリッサを長女か次女だと思うんだろうけど、彼女は現在18歳。地球で言う高校生と同じぐらいだ。



 そんな彼女は、少しばかり実力主義的な考えがあるのが欠点か。



「ウサ姉様、そろそろ夕食の時間ですよ」



 ……返事はない。



「ウサ姉様?」


「…………」



 近くまで来て問いかけるも、集中しきっているのか返事は無し。まぁこれもいつものことではあるけど……


 アリスティラとイルルジーナがあれほど構ってくれるのに、ウーサリッサの塩対応には、俺も少し思うところがあるわけで。



 少しムッとした俺は、座禅を組む彼女の脚の上に、コロンと頭を置いて寝転がった。



「……」


「…………」


「………………」


「……何をしているのだ、カイゼル」


「あっ、やっと反応してくれましたね」



 寝転んだまま彼女の顔を見上げると、切れ長の目に覗く、赤く美しい瞳と目が合った。


 少し不満そうに歪められた彼女の口元は、俺の位置からでは彼女の豊満な胸に隠れて見えない。


 イルルジーナと同じく、ウーサリッサのスタイルも凄いんだよね……誰かさんとは大違───止めよう。



「精神統一の邪魔をしないでほしいのだが……」


「だって無理矢理にでも中断させないと、ウサ姉様はご飯も食べずに一日中こうしてますよね?」


「……だがこれも、剣の道には必要なこと。全ては己を見つめ直すことから始まるのだ」


「しっかり栄養は摂って、強い肉体を作るのことも必要なのでは?」


「うっ……」



 図星だったようだ。

 反論できなかったウーサリッサは、苦々しい表情を浮かべること数秒。ハァ……と大きく息を吐き、俺を降ろして正座に座り直した。


 そして、自俺に視線を送りながら自身の膝をポンポンと叩く。



「んっ」


「……どうしました?」


「ひ、膝枕をしてやろうと言っているのだ……!」


「ふふ、ウサ姉様ってツンデレですよね……」


「戯けたことを言うのなら止めようか?」


「喜んでさせていただきます!」



 ウーサリッサの気が変わらない内に、俺はソッと彼女の膝の上に頭を乗せる。


 俺が甘えると、なんだかんだ言いながらも応えてくれるウーサリッサはやっぱり優しいお姉さんだ。



 ……鍛えてるだけあって、感触は硬め。いや、もちろん気持ち良いんだけどね?


 けど、全体的なムッチムチにイルルジーナと比べると───おっと、また何か謎の悪寒が……。


 変なことを考えててバレると、またイルルジーナに"メッ!"されるかもしれない。



 いや、イルルジーナやアリスティラにならまだ良い。エレイア姉様……第四王女『エレイア・ハルメシア』にバレたら、"っ!"される可能性も……



「カイゼル、なぜ私の膝の上でしかめっ面を……やはり姉上でないと嫌か?」


「ハッ……! そ、そんなこと無いですよ! ウサ姉様のお膝も凄く気持ちいいです!」


「そ、そうか……」


 そんな風に一言呟いたウーサリッサは、照れ臭そうに少しだけ目を逸らし、ほんのりと頬を赤く染めている。


 な、なんだこの胸の奥から沸き上がる気持ちは……


 アリスティラやイルルジーナがあんな感じ・・・・・だから、逆にウーサリッサの奥ゆかしい反応が……正直、性癖が歪む。



「それにしても、ウサ姉様は僕には優しいですよね」


「べ、別にカイゼルが可愛いからというわけではなくてだな……! あ、あれだっ、飴と鞭・・・というものだ!」


「飴と鞭?」


「うむ、いつも私の剣の修行に突き合わせているからな。たまにはこうして優しくしてやろうというわけだ」



 膝の上に寝転ぶ俺の顔を覗き込み、ドヤ顔を浮かべるウーサリッサ。……彼女はこう言っているけど、実際は修行よりこうした触れ合いの時間の方が長いことは黙っておこう。


 まぁでも、この後の修行に付き合わされて、またボコボコにされるんだろうな……。

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