第二王女 イルルジーナ
第一王女アリスティラから助言を貰ったカイゼルは、早速自室に戻って作業を再開した。
自信作であるメイドゴーレムをさらに完璧なものに仕上げるため、改造を……作り直すのは大変なので、強化パッチのようなものを作って追加したい。
より正確に状況把握ができるように、そしてより多彩な思考・判断ができるように……
こことここを繋いで、さらにここを……難しいな。
よし、一旦これで魔力を通してみて───
「っ!?」
魔力を流した瞬間、ボンッ! と激しい音を立ててパーツが爆発してしまった。
当然至近距離に居た俺は間近で爆発を受け、流血沙汰には至らないまでも、なかなかのダメージだ。
「痛ててて……術式の構築をミスってて暴走したのか……」
メイドゴーレムに用いる術式は非常に高度かつ繊細で複雑だ。これぐらいの失敗は付き物である。
アリスティラと共に考案した術式をミス無く組めるかどうかは、俺の技量次第。こればっかりは練習あるのみか……。
「んっ……?」
そんな時、俺の部屋にノックの音が響いた。誰だろうか……
「カイゼル君、また事故が起きたように思うのですが……」
「あっ、イルル姉様!」
慌ててドアを開けると、そこには心配そうな表情を浮かべたイルル姉様───第二王女『イルルジーナ・ハルメシア』が立っていた。
……結界で音も魔力も漏らさないようにしていたのに、イルルジーナはどうやって今の事故を知ったんだ……?
イルルジーナは背が高く、白いストレートヘアと赤い瞳が美しい。
王女であるにも関わらず飾り気の無い修道着を着ているのは、彼女は唯一神教で高い地位についており『聖母』として人望を集める人物だからだ。
母親でもなければ結婚もしておらず、なんならそういった
……まぁ、イルルジーナがあまりにも母性に溢れているからだと思うのだが……。
老若男女、貴賤も問わず、彼女は底抜けの慈愛を与える。それは、彼女を『聖母』足らしめる理由の一つだった。
そして部屋に上がった彼女は、俺の手や頬が赤くなっているのを見て、慌てた様子で俺の身体を抱き締めた。
「ちょっ、イルル姉様っ……!」
「こんなに赤くなっているではありませんか! 無理したらいけないと言っていますでしょう?」
鈴の鳴るような声で言い聞かせるイルルジーナは、俺の身体を抱き締めたまま頬に手を当ててくる。
すると、淡い光が俺の身体を包み込み、ヒリヒリと赤くなっていた肌は嘘のように元通りに回復してしまったのだ。
これが、イルルジーナが『聖母』と呼ばれる2つ目の理由。どんな怪我や病気だろうとたちまち治してしまう回復魔法を使えるのだ。
唯一神教のお偉いさん曰く、彼女の魔法は『神の御業』と称すべきほどのものらしい。
そして───
「あ、ありがとう、イルル姉様」
「全くあなたは……あなたが怪我をする度に、
「うぅ……ごめんなさい……」
「今日という今日は許しません! 二度と危ないことはしないと誓うまで、
「んぐっ……苦、し……」
彼女が『聖母』と呼ばれる3つ目の理由。それは、彼女のスタイルが凄すぎるからだ。
今俺が彼女に抱き締められて呼吸困難に陥っているように、彼女のスタイルはいっそ暴力的なほどで……
俺の頭より彼女の胸の方が大きいと言ったら、その凄まじさが伝わるだろうか。
清楚なはずの修道着が、はち切れんばかりに内側から押し上げられる光景……正直、性癖が歪む。
それでいてこうして密着してくるのだから、俺としては最高───いや、その内変な男に勘違いされるのではと気が気でない。22歳と言う年齢も良いし、独身だし。
しかしまぁ、この人をダメにしてしまう程のクッション性……アリスティラとは大違———なんか凄まじい悪寒が襲ってきたから、この考えは止めよう。
「カイゼル君、どうかしましたか?」
「い、いえ……何でもないです。それより、もう危ないことはしないと誓うので離してください……」
「本当ですか?」
「はい、イルル姉様に誓って」
「
聖母のような微笑みの中にほんの少しだけ納得のいかない表情を見せたイルルジーナは、仕方がないとばかりに俺の身体を解放してくれた。
これで俺も満足に息ができ———
「親愛なるあなたに、神のご加護があらんことを」
「っ!?」
俺の前髪をかき上げたイルルジーナは、そのまま額に唇を落とした。柔らかく、温かい感触を感じ、俺はビクッと硬直して頬が熱くなる。
「イ、イルル姉様……!?」
「
「んんっ!?」
ふわりと優しい笑顔を浮かべた彼女は、もう一度俺の額にキスをしたのだ。二回目はさすがに俺も予想できなかった。
「これは姉としての気持ちです。努力をするあなたの姿、
一転して可愛らしい少女のような笑顔を見せたイルルジーナは、ポンポンと俺の頭を撫でてから部屋を後にした。
……正直、性癖が歪む。
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