第一王女 アリスティラ

まえがき


 もう一話いきまーす


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 カイゼルが生まれてから10年。


 10歳となったカイゼルは、生まれてすぐの頃に感じていた絶望はどこへやら。魔法の研究を続けていた彼は、生き生きとした人生を送っていた。


 それほどに、『魔法』というものが楽しかったのだ。知れば知るほど、使えば使うほど新たな発見があり、研究オタクなカイゼルにとっては不便さも吹き飛ぶ楽しい時間だった。



 そんな彼は今、長女である第一王女の元へ向かっていた。彼の研究を、さらに高度なものにするために……



        ♢♢♢♢



 第一王女、『アリスティラ・ハルメシア』の部屋の前に来た俺は、少し服を整えてドアをノックする———その直前、部屋のドアが独りでに開いた。



「カイゼルじゃな、入るが良い」


「……よく分かりましたね、アリス姉様」


「お主の気配は大きすぎる。バレない方が難しいと思うが」


「そういうものですか……」



 部屋に入ると、これまた独りでにドアが閉まる。部屋の奥にいるアリスティラが、魔法で遠隔操作しているのだ。


 そんなアリスティラは、俺の姿を見ると嬉しそうに頬を緩め、羽ペンを置き椅子から降りてこちらへと歩み寄る。



 艶やかな金糸の髪を腰まで伸ばし、赤と緑のオッドアイが真っすぐにこちらを覗く。目線の高さは、俺と同じだ。


 アリスティラは現在25歳。にもかかわらず、10歳の俺とそう変わらない見た目年齢をしていた。金髪オッドアイ合法のじゃロリ王女だ。


 ちなみに未婚である。



「カイゼル、お主今失礼なことを考えなかったか?」


「なぜバレ———いやっ、なんでもないです!」


「今『バレた』と言いかけたじゃろ」


「違っ……10年前から見た目が全然変わってないと思っただけです!」


「あぁ、この身体の事か。まぁ仕方あるまい」



 アリスティラ曰く、彼女は生まれつき持っている魔力量が尋常ではなく、その魔力の作用で身体の成長が非常に遅いらしい。そのため、25歳になってもまだ10代前半の見た目だそうだ。



「まぁよい……妾は今機嫌が良いのでな」


「機嫌がいいのですか?」


「うむ……我が愛しのカイゼルが、妾を求めてきてくれたのじゃぞ? くふふ……こんな嬉しいことは無い。ほれ、そこのソファに座るが良い。茶でも淹れてやろうぞ」


「あっ、いえ、流石にアリス姉様の手を煩わせるわけには……それに、僕の研究成果を見せに来たので」



 そう伝えて、俺は指に着けていた指輪型の魔道具を発動する。これは、俺が生み出した『賢者の石』にアリスティラの『空間魔法』を付与して作った、『異次元収納』ともいうべき魔道具だ。


 大体どんなものでも収納できる、かなり便利な道具である。



 指輪が眩い光を放ち、収納されていたとあるものを出現させる。徐々に姿を現したそれは———



「これは……ホムンクルスか?」


「いえ、これはゴーレムですよ」



 現れたのは、一体の女性型のゴーレム・・・・であった。


 ホムンクルスは生物を用いて作り上げる人造人間。ゴーレムは非生物の材料を用いて作る人形。その二つの内容は大きく異なる。



 アリスティラが驚いたのは、そのゴーレムの精巧さである。生きている人間と紛う程に精巧な作りのそれは、それまでの『ゴーレム』という概念からかけ離れたものであった。


 肩の長さで切り揃えられた金の髪はなめらかで、血色の良い肌は、しっとりとした柔らかさまで見て取れる。背は俺やアリスティラよりも10cmほど高いぐらいか。


 白と黒を基調としたメイド服を身に着け背筋を伸ばし凛と佇む姿は、王宮で働く侍女を彷彿とさせるものであった。



「……しかし、なぜメイド服なのじゃ?」


「このゴーレムは戦闘能力も兼ね備えていますので」


「……? 戦闘能力を持っていると、メイド服を着るのか?」


「もちろん、メイドですから」


「???」



 頭の上に『?』を浮かべて首を傾げるアリスティラ。戦闘メイドゴーレムはロマンでしょうよ……。女性には分からないか……。



「と言うわけで……アリス姉様の代わりにお茶を淹れてくれない?」


「畏まりました」



 メイドゴーレムは優雅に一礼すると、ゴーレムとは思えないほど細やかな動きでお茶を淹れ始めた。



「おぉ、これほど繊細な動きも可能なのじゃな」


「はい……パーツを一つ一つ『錬成』して組み上げましたので相当苦労しましたが……完成度はこの通りです」


「くふふ、流石は妾の弟カイゼルじゃ。褒めてやろう!」


「わぷっ……!」



 突然、破願したアリスティラに抱き締められる。彼女の体格は俺とそう変わらないけど、女の子特有の柔らかさやいい匂いに、俺の心臓はドキッと跳ねてしまう。


 俺の成功は、アリスティラにとっても自分のことのように嬉しいようで、彼女の小さ───慎ましい胸に包まれ、撫で撫でと頭を撫でられる。



 俺が赤ちゃんの頃からずっとこの調子だ。妹しか居なかったから、弟ができたのが嬉しいのだろうか……。


 俺が初めて立った時、初めて喋ったとき、初めて魔法を使った時……何かを成し遂げる度に、こうして全力で誉めてくれて、一緒に喜んでくれる。



 ……正直、性癖が歪む。


 いや、俺も嬉しいから、突き放したりはしないんだけどね。



「んむっ……でもアリス姉様、まだこれは試作段階ですので、簡単な作業しかできないのです。もっと色々なことができるように、魔法に長けるアリス姉様の力を借りたいと……」



 アリスティラはこの国で……いや、この世界でも右に出る者は居ないほどの凄まじい魔法使いである。


 魔法の威力はもちろんのこと、速度や制御、魔法陣や魔法術式の構築までも、何でもこなす万能タイプ。


 特に魔法術式は、このメイドゴーレムの行動を自動化するためには無くてはならないものだ。彼女の協力を得られれば、俺の夢の戦闘メイドゴーレムも夢ではないはず!



「最愛の弟の頼みじゃ、いくらでも協力しようぞ」


「ありがとう!」


「んフッ……なんて可憐な笑顔なのじゃ……」


「早速、ここの術式ですけど……」


「よろしい、見せてみよ」



 メイドゴーレムが淹れたお茶を飲みつつ、俺とアリスティラは魔法術式談義に華を咲かせることにした。

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