淡い彼女
「在校生代表、青柳ひな」
サラサラの長い髪を揺らして、彼女が壇上に立つ。
優しそうな笑顔はまるで、花のようだ。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
透き通るような細く綺麗な声。
東郷京介は、その声に聞き覚えがあった。
どこで聞いたのだろう。
じっと彼女を見つめる。思い出した。
「以上で、代表の挨拶とさせていただきます」
そう言って、ひなが壇上を降りていく。
(花火大会で会った、あの子だ)
昔のような明るい雰囲気ではないけれど、声が同じだった。
あの頃よりも消えそうなほど儚い空気を纏っていることが気になる。
この8年の間に、彼女に何かあったのだろうか。
どこか悲しげな色が浮かぶ瞳が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
入学してから、1ヶ月近く経った、ある日のこと。
ふと、足が止まる。目の前にはひながいた。
「ひな先輩、こんにちは」
「あなたは…京介くん?だったかしら」
「はい。東郷京介です。先輩は、この辺に住んでるんですか?」
「ええ、そうよ。京介くんも?」
「はい。俺たち家が近いんですね」
そう言うと、ひなが目を丸くした。
「この辺りの夏祭りに来ていたから、近くに住んでいると思っていたけれど」
「ええ!?」
ひなから花火大会のことを言われると思っていなくて驚いてしまう。
(ひな先輩も、覚えていたなんて)
驚きと同時に嬉しさが込み上げて来た。
京介にとって、8年前の花火大会は思い出の日だから。
「ねぇ、途中まで一緒に帰らない?」
「はい是非!先輩、連絡先を交換しませんか?」
ひなが驚いたように見上げてくる。
早まってしまっただろうか。
「いいよ。はい」
ひながスマホを差し出してくれる。
急なお願いを聞いてくれたことに驚きつつ、京介も自分のスマホを差し出した。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
スマホを顎に押し当てて、ひなが笑う。
京介も笑い返した。
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