第8話

その原因に気付かないフリをして、僕もまた反対方向に歩を進めようとした、その時。



ドサリ、と。



何かが倒れる音がした。



反射的に振り返ると、そこには美しい黒髪が無惨にも散りばめられていて。



慌てて駆け寄ると、顔を蒼くした彼女が左脚を庇うように抱えていた。





◆◇◆




「先生、これは何のつもりかしら?」


「うん?」




僕の家は、それこそ病院みたいになっている。



といってもそれは一室だけで、そこには病室にあるような診療台が置かれている。



――――しかし、病院のそれとは明らかに違う点が一つ。




彼女はがしゃりと音を立てながらそれを僕の前に掲げてみせた。




「惚けないで。私をどうするつもり?」


「どうって……診察するに決まっているだろう?」




いつものような会話。しかしいつものように彼女が余裕のある笑みを浮かべないのは、その両手に重苦しい鎖があるせいだろう。

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