第17話

先生は、自分のそばのイスに座って手を組んで貧乏ゆすりをし始めた。


「お前、ピアニストになりたいのか?」

「はい。」

「ピアニストになって、どうする。」

「それは…」


口をつぐんでいると、

「質問を変えようか。

いいか、答えによっちゃあ

ここを出て行ってもらうからな。

お前、

誰のためにピアノを弾いている?」


「…答えなんて、ありません」


先生は、きょとんとした。


「もし、答えを言うなら、

死んだ人にです。

よこしまな気持ちです。」

「お前、人が死んだら、その人は何処にもいなくなるんだぜ?」

「蝶…」

「…?…なんだって?」


「矢咲先生…。蝶が羽ばたいただけで、風をおこして天候を左右するって話、ぼくは信じてるんです。」


オレは情けなく笑って、

「ぼくが、震動させた音が、

波になって天国まで飛翔できたらって…

ぼくはそう考えてます」


先生は、

「ちきしょう!!」と、

突然目が潤んだ。


「お前、それはよこしまじゃないぞ。

お前って、いいこと言うな。

いい奴だな。

気に入ったよ…。

お前、一番に面倒見てやるよ…!!」



…。


…意外に情があったことが分かって、変な気持ちになった。

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