第16話

オレが弾き終わるまで、

気違いは壁によしかかり、

腕と足を組んでいた。


オレは視線を感じながらも、

鍵盤に指を打ってゆく。


一週間分の反動が音になる。


…そして、最後まで弾ききると、オレはゆっくり膝に手を置いた。


全身が汗でびっしょりする。


「はっはっはっ!!」

気違いが、豪快に笑った。


「弾き込んでるなぁ、おいぃ。

お前、名前なんていう。」


「…坂口カズヤ…です。」

「オレは、矢咲たかしだ。

15年ほど前に、仕事をやめたがぁ…こんな形で再就職よ。」

彼は、ニヤニヤうす笑いを浮かべ、手を伸ばした。


オレは、一度握手をしたが、

すぐ何か殺気を感じ取り、

すぐ手を引っ込めた。

「おっと、早い。」

この、矢咲だかという先生は、ニヤニヤとしていた。


オレは、先生に、

オレの手を握り潰されることを感じ取ったのだ。


オレは、普段から手を大切にする術を身につけていたので、この悪質な悪戯を瞬時に感じ取ったのだ。


それにしても、本当に先生か?

気が狂ってる。


オレは、手の汗と一緒に、額の汗も拭いた。


オレは、先生から目を反らして、

咳払いをした後、

乱れた息を整えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る