第13話

一週間後、オレはあの

『気ちがいの家のピアノ教室』の玄関が立っていた。


一週間、オレはピアノを弾いていなかった。


すでに指が衰えてると分かっていたが、

いつの間にかここに足を運んでいた。


今は、オレが誰のためにピアノを弾くのか、答えがなかった。


困惑もしている。


どうして『ここ』であるかは、分からない。

残暑で汗だくになってるまま、しばらくここに立っていると、

玄関が空いた。


中からしわしわの、にこにこしたお婆さんが出てきた。

「あ、あの…」


オレが焦ってると、

「たかしの生徒さんかい?」


たかし…


たかし?


オレがブフッと吹き出すと、

「何だお前は。」


家の奥から、以前見た気違いが出てきた。


「たかし、かわいい生徒さんねぇ」

お婆さんは、ニコニコしていたけど、

『気違い』を見た瞬間、オレは凍りついた。


その人は、

まるで人を殺しそうな目をしていた。

“ここから出てけ”と言おうとするのかごとく。


…でも、オレはその目を見つめ続ける事ができた。

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