第12話

真っ暗な自分の部屋に入って、

真っ暗な香音の部屋を見つめた。



もうあの部屋には誰も戻ってこない。


…誰だろう。

誰が帰ってこないんだろう。

誰が帰ってこないか、考えた。


涙がこぼれている事に気付いたのは、

顔がぐしゃぐしゃになってからだった。


涙を拭いた後、ベットの上にのって、壁に背もたれをして、しばらくボーっとしていた。


母さんは、オレが帰ってきた事に気付いたのか、オレの名前を呼んで、オレの部屋に入ってきた。


オレの隣りに座って、

その正面の香音の部屋を見た。


オレの顔の一度見た後、母さんが口をおさえて泣いた。


オレは我に返った。


あまり、母親は子供に自分の弱さを見せないと思ってたのに、オレのすぐ近くで泣き始めて、オレは意識をはっきりさせて戸惑った。


こんな時、

どうしたらいいか、分からない。


オレの方が、泣けばいいものを、

逆に当惑した。


不意に、

“…もしや”と思った。


母親は、ずっとオレを育ててきた。

隠しても、オレが香音を好きだったって

バレていたかもしれない。


いや、バレている。


オレはだまったままになった。



母さんの気持ちを考えると、

オレはこのままずっと黙ったままの方がいいと思った。


香音への思いは、今後誰にも言わない。


もう、言えなくなってしまった。

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