第10話
オレは、その日から香音に話しかけられなくなった。
香音も、無言のままバイオリンを奏でる。
しばらく、二人とも、自分の曲に集中した。
隣りの香音のバイオリンを聴くと、嫌になる。
バイオリン自体が嫌いになりそうだ。
でも、耐えがたいオレ等の沈黙を破ったのは、別れを告げられて1ヶ月しない内だった。
…オレが香音の部屋を目にした時、
香音がオレに背を向けて演奏をしていたのだ。
長くて細くて黒い髪が、上品だった。
そして・・・もし、抱きしめられたら・・・・
そう思った時には、すでにオレの足が動いていた。
オレはいつの間にか、
カノンの部屋のベランダに、ジャンプして渡っていた。
香音は、こちらを見て、すぐさま窓を開けた。
目を丸くて、愚か者を見る目で見て、
でも、何も言わせまいと、
オレは彼女を抱きしめた。
「ケガしたら…」
そう言いかけた香音は、
耐えられなくなったのか、
泣き始めた。
自分の指のケガに気をつける事を忘れてたのは、この一度きりだった。
ピアノは、彼女のために弾いてきたと分かった瞬間だった。
……次の日から、
香音とオレは、普通に話をするようになった。
恥ずかしいながらも、オレに話しかける香音は、中々オレの目を見てくれない。
オレは、香音より背が高くて、斜め上から見下ろす感じだった。
ふかんに見る彼女の、照れを隠すような表情と仕草は、かわいい。
そんな彼女との最後の別れは、
彼女をもう諦めようかと思ってた時だった。
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