第5話

隣りの子は、

香音(かのん)という名前だと知ったのは、その日の晩。


親の話をろくに聞かずにテレビのニュースを見てるぼくが、

母さんたちの話のそこのとこだけスッと耳に入った。


初めは、音楽のカノンかと思ったけど、

お隣さんの噂をしている内に

どうやら隣りは音楽好きの一家らしかった。


はいはい、だから子供が香音。

大人も単純だよなあ。

そう思いつつ、


夕食後すぐ2階の部屋に戻って、窓をチラッと見た。


香音が絵本を読んでる。


沢山積み上げて集中ている。


髪が綺麗で、さわりたい。


そう思ってると、

香音が本を閉じた。


ぼくはビックリして、すぐにピアノを弾いて、誤魔化した。


「何か違う。平坦。」


香音が、ぼくにケチをつけてきた。

「強弱ならつけてるって」

反撃すると、

「強弱じゃない。ちがう、そんなんじゃないって。」


香音が、ぼくにケチをつけながら、

「この曲でどんな世界をつくりたいの?

どんな物語にしたいの?」


ぼくは、香音の言葉を聞いて、

あっけにとられた。


こんな、技術磨きだけの練習曲に物語?


「その曲、何日かかってるの?

先生に次にあげてもらえてないよね(今の曲に合格を貰えないの意)。

それ、クリアしてないからだよね。」


今までずっと、ぼくの曲をしっかり聴いていたのだ。


恥ずかしくなかった。

ドキドキした。


…ピアノが上達するんだったら、

この同じ歳の子の、しかも女(の子)のいう事だったけど、しっかりきこうと思った。

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